「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
「売らなかった。それが、ラグナリアの誇りだったからな。」

誇り。

その言葉に、私は一瞬、返す言葉をなくした。

「それに、俺は“坊ちゃん”じゃない。」

ゼインは、今度は少しだけ強く言い返してくる。

「え? だって……国王だったんでしょ?」

ゼインは泡を流し終えると、静かに湯船に身を沈めた。

しばらく黙ったまま、湯の中で目を閉じていたが、やがてぽつりと口を開いた。

「……俺が国王になったのは、このアルディナ国が攻めてきた時だ。」

「……はっ⁉」

私は思わず声を上げた。

「まさか……即席の王⁉」

それはあまりにも、にわかには信じがたい話だった。

ラグナリアはたしか、民主制を取っていたはず。

王制なんて、聞いたことがなかった。

けれど――そう。

ずっと不思議には思っていた。

なぜ“ラグナリア王”と呼ばれているのかと。

ゼインは肩まで湯に浸かりながら、穏やかに言葉を続けた。
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