「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
「……心配か?」

ゼインが、低い声で尋ねた。

私は息をのんだ。

頷けなかった。けれど、否定もできなかった。

まるで、彼の熱が肌を伝って流れ込んでくるような感覚。

「……血が出てるのよ。ただ、それだけ。」

そう言いながらも、視線を逸らせなかった。

この人は、何も語らずに、戦いも、痛みも、全部ひとりで背負ってきたんだ――

初めてそんな想いが、私の胸に湧いていた。

しばらくしてからだった。

王宮のあちこちで、奇妙な噂が広まりはじめた。

「最近、どうも商人たちの結婚が相次いでいるらしい。」

「それも、なぜか皆、ラグナリアの女性とばかり……」

「……どういうこと?」

私は不審に思い、そばにいた侍女に尋ねた。

だが侍女は、目を伏せたまま口を閉ざした。

「それが……」

ぽつりと落とされたその言葉は、重く、暗く、苦い響きを持っていた。

「アルディナの商人が……ラグナリアの女性を、お金で“妻”にしているのです。」
< 24 / 62 >

この作品をシェア

pagetop