「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
その瞬間、私の中で何かが崩れた。

そして――

「ゼイン!」

気づけば、ゼインが階段を駆け下りていた。

一階の広間へと、まるで何かに突き動かされるように。

私は慌てて彼のあとを追いかけた。

広間では、何人かの商人たちと、兵士、侍女たちが集っていた。

その中には、ゼインを知る者もいた。

ラグナリアから連れてこられた者、かつて戦に加わった者、そして今、“買われた女”として連れてこられた者の姿も。

ゼインは息を荒げながら、視線を彷徨わせていた。

その眼差しは――怒りと、焦りと、深い悲しみに満ちていた。

「誰だ……誰がラグナリアの女を金で買った!」

その叫びは、広間にいた者たちの心を刺した。

一瞬の沈黙の後、ざわめきが走る。

商人たちは目を逸らし、侍女たちは顔を伏せ、当の女性たちは、ただ静かに立っていた。

まるで、感情を捨ててしまったかのように。
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