「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
そしてゼイン王が、縄で縛られ、この王宮へと護送されてきた。

私は人目を忍び、廊下の壁の陰からその姿を見つめた。

ぼさぼさに乱れた黒髪。

顔には泥と血の跡。

衣服も破れ、王の面影は――あるはずだったのに、どうしてだろう。

その姿はあまりにも痛々しくて、けれど、どこか崩れていなかった。

縄で縛られ、剣も奪われた男。

それなのに、ゼイン・ラグナリアは背筋をまっすぐに伸ばしていた。

「ゼイン・ラグナリア。顔を上げろ」

父王の声が響く。

その言葉に従い、ゼインは静かに顔を上げた。

目が合った。

鋭い視線だった。

傷ついてなお、目の奥に宿る光は濁っていない。

「若造……やってくれたな。」

父王が唇をゆがめて笑う。だが、ゼインは無言だった。

怒りも、屈辱も、言葉にせず、そのまなざしだけですべてを跳ね返しているようだった。
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