「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
私は思った。

――この人は、ただの捕虜じゃない。

「なぜ、そこまでしてダイヤモンドを欲する?」

ゼイン王が、低く静かに口を開いた。

初めて聞くその声は、思っていたよりも落ち着いていて、冷えていた。

「……あれは、ただの石だ。」

王としての敗北を受け入れた男が、それでも言葉を選ぶ。

その姿に、私は目を離せなかった。

「そうではない。」

父王がゆっくりと懐から小箱を取り出し、蓋を開けた。

中には、ひとつのダイヤモンドがあった。

「これは宝石だ。宝石の中でも、とびきりの上玉。」

指先で光を受けたその石は、まるで星のかけらのように輝いていた。

「それを欲するのは、王として当たり前のことだろう。」

言い放つ父王の声には、冷酷な欲が込められていた。

美しさを奪い、飾り、自分の力の象徴にする――そんな支配者の声。

ゼインはまた黙ってしまった。

まるで、その考えに何の価値も見いだせないと言うように。

彼の沈黙は、敗者のそれではなかった。
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