「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
「リシェル」

名前を呼ばれて、思わず振り返る。

鏡越しに、ゼインの姿が映った。

いつの間にかすぐ後ろに来ていて、私の肩を抱き寄せる。

「今夜から、俺たちは夫婦だよ。」

その低い声に、心臓が跳ねた。

横顔がすっと近づいてきて、耳元に吐息がかかる。

そして、そっと唇が重なった。

「ん……」

驚きと緊張で、息が詰まる。

キスは甘いと誰かが言っていたけれど――

今の私は、ただ体の奥が固まってしまったようで、ゼインの体温も、唇の柔らかさも、うまく感じ取れない。

――これが、初めてのキス。

私の指先は、彼の胸元のシャツをきゅっと掴んでいた。

「……ごめん、緊張してる?」

ゼインがそっと唇を離して、優しく微笑む。

私は恥ずかしさで顔を伏せた。

「だって……これが“初夜”でしょう?怖くないはずがないわ。」

そう言うと、ゼインはふっと息を吐いて、私の額に軽くキスを落とした。
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