「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
(うそ……でしょ……?)

なのに、声が出ない。足も動かない。

ただ、その場で立ち尽くしてしまった。

「愛が欲しいんだ。」

ぽつりとこぼしたゼインの声が、夜風に溶けていく。

その言葉は、あまりにも酷くて優しくて、私の心をずたずたに裂いた。

そして――

ゼインはシシリアの手を取り、庭園の奥へと歩き出した。

(どこへ行くの……?)

私は何かに突き動かされるように、彼らの後を追った。

音を立てないように、足音を殺して。

茂みに身を隠しながら、二人を視界の端にとらえる。

やがて、温室のような小さな建物が見えた。

古びたガラス張りのハウス。王家の者でも滅多に近づかない、静寂の場所。

ゼインが扉を開け、シシリアを中へ誘い入れる。

「ここなら……誰にも邪魔されない。」

扉が、静かに閉じられる音がした。

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