「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
私は、ハウスのすぐそばの木陰に身を潜めた。

心臓の鼓動が耳の奥で鳴り響く。

中の様子は見えない。

でも、ぼんやりと映る二つの影だけが、ガラス越しに揺れている。

窓の向こう――

薄暗い庭園の奥にあるガラス張りの小さなハウスの中。

リシェルは胸を押さえて、その場に立ち尽くしていた。

中では、ゼインとシシリアが急ぐように互いの服を脱ぎ捨てていた。

慣れた手つきで、ゼインは彼女の肌に唇を落とし、その首筋をなぞるように愛でていく。

シシリアは目を伏せながら、何も言わずにその愛撫を受け入れていた。

どこか、切なさを含んだ静寂が流れていた。

熱い激情というよりも、失われた日々を取り戻すかのような、痛みのある優しさ。

ゼインの手は丁寧に、愛おしむようにシシリアの背を撫でていた。

やがて二人は近くにあった椅子へと身を寄せると、静かに体を重ね合わせていく。

「シシリア……」

「ゼイン……」
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