「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
繰り返される名前。

それは、ただの呼びかけではなかった。

まるで、過去の時間を埋め合わせるように、何度も、何度も。

窓の外でそれを見つめる私の胸の奥に、静かな痛みが走った。

触れられたわけでも、言葉を投げられたわけでもないのに、私の心は、張りつめた糸がぷつりと切れるように、音もなく崩れていった。

愛があった。

確かに、あの空間には本物の――かつての愛が。

私は、声も出せず、ただガラス越しにその光景を見つめていた。

その夜、私はベッドに潜り込むと、布団をぎゅっと握りしめて目を閉じた。

心臓の奥がじくじくと痛む。あの光景が、何度もまぶたの裏に浮かんで離れない。

ゼインとシシリア。かつて愛し合った二人が、まるで時が巻き戻されたかのように抱き合っていた。

私がどれだけ彼に想いを向けていたとしても、それは届かないのかもしれない――そんな絶望が、静かに胸を満たしていた。
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