「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
「彼女とはもう会わない。許して欲しい。」

その言葉に、私はほんの少しだけまぶたを閉じた。

心が壊れかけているのに、彼の腕に入ってしまう自分が情けなかった。

それでも、そうしなければ、今夜は眠れない気がして。

「……うん。」

私は静かに答え、ゼインの胸元に顔をうずめた。

抱きしめる腕はある。

けれど、あの夜にあった情熱も、愛しさも、ここにはなかった。

「リシェル……」

呼ばれた名前に、胸が痛む。

私は黙って目を閉じた。

ゼインの腕の中、確かにぬくもりはあるのに、私の心はどこまでも寒かった。

「ゼイン……」

彼の名を呼ぶ声は、どこか震えていた。

それでも私は、あのシシリアのように、彼の名を呼びたかった。

愛されていた彼女のように、私も。

「私の肌に触れて……」

それは哀願にも似た声だった。

自分でも、ここまで惨めになれるのかと心のどこかで思いながら、それでも私は彼に求めた。
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