「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
父王は無言で片手を上げた。

その合図に応じて、侍従が剣を持って進み出る。

細身の儀礼剣――だが、鋭さは本物だった。

「剣を持て。」

父王にその剣が手渡される。

そして、王はゆっくりとゼインの前へと歩みを進めた。

騒ぐ者は誰もいない。

重臣も、兵士も、ただ静かに見守る。

息すら、ひとつも聞こえない。

ゼインは目を伏せなかった。

視線はまっすぐ、父王の瞳を射抜くように見据えていた。

死の訪れは、次の瞬間かもしれない。

けれど、その場にいた誰もが、

――この結末が“違うもの”になる予感を、どこかで感じていた。

「おまえをここに連れてきたのはな……わしを手間取らせたからだ」

王座から立ち上がり、剣を持った父王が、静かに歩み寄る。

ゼインは一言も発さず、表情ひとつ変えずに、その姿を見つめていた。
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