「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
「若造。」

父王の瞳に、一瞬だけ怒りと侮りが宿る。

「この手で命を絶ってやるわ!」

剣が、音を立てて振り上げられた。

その切っ先は、ゼインの喉元へと構えられる。

「最後に、言うことは?」

父王の声は静かだった。だが、確かに“終わり”を告げていた。

ゼインは、ほんの少しだけ顔を上げた。

縄で縛られ、血と泥にまみれた敗者の王。

だがその目は、少しも負けていなかった。

「ラグナリアの民を……捕虜とすることなく、自国の民と同じように扱ってください。」

その言葉に、王宮が静まり返る。

「……なんだと?」

父王の手が止まった。

「私の命より、民の未来を願います。」

ゼインの声は、驚くほど静かで穏やかだった。

「アルディナ国に、幸福を。」

そう、まるで自国の王であるかのように――祈りのように。

父王は動かなかった。

剣はまだ、ゼインの首の上にある。
< 8 / 62 >

この作品をシェア

pagetop