「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
けれど、まるで見えない力に腕を掴まれたように、彼は微動だにできなかった。

その瞬間だった。

「俺を殺せえええ!」

ゼイン・ラグナリア王の叫びが、広間の高い天井にまで響き渡った。

縄に縛られたまま、うつむいていた彼が、血を吐くような声で叫んだのだ。

その声に、誰もが息を呑む。

そして――

振り下ろされた。

父王の剣が、一直線に、ゼインの首元へ向かって落ちてくる。

誰もが目を瞑った。

私も、恐怖と衝撃で胸が締めつけられた。

――カツン!

硬い音が、空間を打ち抜いた。

「えっ……?」

目を開けた者たちは、次々に息を呑んだ。

父王の剣は――

ゼイン王の喉ではなく、その目前の床に深く突き立っていた。

「若造……」

父王の声は、低く、そして静かだった。

だが次の瞬間、その呼び方が変わる。

「いや、ゼイン王。」

玉座の王は、敗者を見下ろすのではなく、対等に見据えていた。
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