夜探偵事務所
「みんな長旅ご苦労」
山門の前で夜は仲間たちを労った。
「ただここからが本番だ」
「はい!」
璃夏は緊張した面持ちで力強く頷く。
「おぅ」
滝沢は気の入らない返事をしながらもその鋭い視線は油断なく周囲の闇をスキャンしていた。
「皆さん……すいません。僕なんかの為にここまでして頂いて……」
健太が申し訳なさそうに頭を下げる。
「お前はしつこいじいさんに感謝しろって何度も言わせるな」
夜はぶっきらぼうにそう言って健太の言葉を遮った。その時本堂の方から一人の男が静かに歩み寄ってきた。白を基調とした狩衣(かりぎぬ)に高く黒い烏帽子(えぼし)をかぶっている。一目でそれが陰陽師の正装だと分かる出で立ちだった。
「長旅ご苦労やったな。さぁみんなこっちへ」
夜の父、仁だった。
「……仁なんて格好してんだ?」
夜は父のその姿を見てポカーンとした表情で言った。
「『なんて格好』ってお前今日は深淵の者と戦うんやで?そりゃ正装もするやろうが」
仁は呆れたように娘を諭す。
「戦うのは私だ。仁はこの健太を全力で守ってくれ」
夜は父の言葉を遮ると一行を促した。
「細かいことは中で話そう」
寺の居間に通され最終作戦会議が始まった。
「本堂がこの境内で一番頑丈な作りになっとる。そこに中からは出られん結界を張った」
仁が寺の境内図を広げながら説明する。
「ほんでその隣の護摩堂(ごまどう)には何人たりとも中には入れんよう通常のしかし強力な結界を張ってある」
その説明を受け夜が作戦の骨子を語り始めた。
「じゃあまず本堂に健太一人に入ってもらう。餌になってもらうわけだ」
「そこにあの女……加奈がおびき寄せられて入ったら私と仁もすぐに入る」
「それでワシが健太君を連れてすぐに隣の護摩堂に移動。夜の戦いが終わるまでワシが健太君をそこで守り抜けばええんやな?」
「そうだ」
夜は頷く。
「その間加奈は生きた人間を使って本堂の扉や仁と健太がいる護摩堂の扉を物理的に開けさせようとするはずだ。そこがお前の出番だ」
夜の視線が滝沢に向けられる。
「なるほどな。その扉を開けようとする生きた人間を俺が全員やりゃいいんだな?」
滝沢は心底楽しそうに口の端を吊り上げてこともなげに言った。
「そういうことだ」
「あ、あの私は何をすれば……?」
璃夏がおずおずと手を挙げた。
「璃夏さんは仁たちと一緒に護摩堂の中にいてくれ。加奈以外にも操られた雑魚霊がどれだけ出るか分からないからな」
「わかりました!」
「じゃあ行こうか」
夜のその一言で全員が立ち上がった。
空には細い月だけが浮かんでいる。決行の時だ。
健太は夜に言われた通り一人で本堂の暗闇の中へと足を踏み入れた。心臓が今にも張り裂けそうだった。
隣の護摩堂の中では夜と仁そして璃夏が息を殺して待機している。
そして二つの堂の間に広がる石畳の上では滝沢がただ一人屈伸をしながら体をほぐしていた。
静寂が境内を支配する。
さぁ作戦決行だ。
「みんな長旅ご苦労」
山門の前で夜は仲間たちを労った。
「ただここからが本番だ」
「はい!」
璃夏は緊張した面持ちで力強く頷く。
「おぅ」
滝沢は気の入らない返事をしながらもその鋭い視線は油断なく周囲の闇をスキャンしていた。
「皆さん……すいません。僕なんかの為にここまでして頂いて……」
健太が申し訳なさそうに頭を下げる。
「お前はしつこいじいさんに感謝しろって何度も言わせるな」
夜はぶっきらぼうにそう言って健太の言葉を遮った。その時本堂の方から一人の男が静かに歩み寄ってきた。白を基調とした狩衣(かりぎぬ)に高く黒い烏帽子(えぼし)をかぶっている。一目でそれが陰陽師の正装だと分かる出で立ちだった。
「長旅ご苦労やったな。さぁみんなこっちへ」
夜の父、仁だった。
「……仁なんて格好してんだ?」
夜は父のその姿を見てポカーンとした表情で言った。
「『なんて格好』ってお前今日は深淵の者と戦うんやで?そりゃ正装もするやろうが」
仁は呆れたように娘を諭す。
「戦うのは私だ。仁はこの健太を全力で守ってくれ」
夜は父の言葉を遮ると一行を促した。
「細かいことは中で話そう」
寺の居間に通され最終作戦会議が始まった。
「本堂がこの境内で一番頑丈な作りになっとる。そこに中からは出られん結界を張った」
仁が寺の境内図を広げながら説明する。
「ほんでその隣の護摩堂(ごまどう)には何人たりとも中には入れんよう通常のしかし強力な結界を張ってある」
その説明を受け夜が作戦の骨子を語り始めた。
「じゃあまず本堂に健太一人に入ってもらう。餌になってもらうわけだ」
「そこにあの女……加奈がおびき寄せられて入ったら私と仁もすぐに入る」
「それでワシが健太君を連れてすぐに隣の護摩堂に移動。夜の戦いが終わるまでワシが健太君をそこで守り抜けばええんやな?」
「そうだ」
夜は頷く。
「その間加奈は生きた人間を使って本堂の扉や仁と健太がいる護摩堂の扉を物理的に開けさせようとするはずだ。そこがお前の出番だ」
夜の視線が滝沢に向けられる。
「なるほどな。その扉を開けようとする生きた人間を俺が全員やりゃいいんだな?」
滝沢は心底楽しそうに口の端を吊り上げてこともなげに言った。
「そういうことだ」
「あ、あの私は何をすれば……?」
璃夏がおずおずと手を挙げた。
「璃夏さんは仁たちと一緒に護摩堂の中にいてくれ。加奈以外にも操られた雑魚霊がどれだけ出るか分からないからな」
「わかりました!」
「じゃあ行こうか」
夜のその一言で全員が立ち上がった。
空には細い月だけが浮かんでいる。決行の時だ。
健太は夜に言われた通り一人で本堂の暗闇の中へと足を踏み入れた。心臓が今にも張り裂けそうだった。
隣の護摩堂の中では夜と仁そして璃夏が息を殺して待機している。
そして二つの堂の間に広がる石畳の上では滝沢がただ一人屈伸をしながら体をほぐしていた。
静寂が境内を支配する。
さぁ作戦決行だ。