策士の優男はどうしても湯田中さんを落としたい
新幹線で1時間弱の地方都市でのプレゼンは滞りなく終わった。
緊張もほどけ、手応えは上々だと祐は感じていた。

夕方、ホテルのロビーで瑠璃と二人きりになったとき、祐は切り出す。

「せっかくだから、飲みませんか?」

いつもは冷静な瑠璃も、その言葉に少しだけ驚いたような顔をする。

祐の目はどこか優しく、真剣だった。

「…そうね。」

瑠璃が一瞬、言葉に詰まったように見えたのを祐は見逃さなかった。

居酒屋・落ち着いた個室

二人はゆったりとした空気の中、何気ない会話を交わしていた。
瑠璃がグラスを空け、2杯目のジントニックを注文したところで、祐がふと真面目な表情で話し始める。

「まだ、キャバ嬢やってるんですか?」

その言葉に、一瞬空気がピリリと張り詰める。

瑠璃は一呼吸置いてから、ゆっくりと答えた。

「今は、辞めてるよ」

祐は真剣な眼差しで話した。

「なんでキャバなんですか?」

瑠璃は少し俯き、観念したように息をついて話し始める。

「知り合いの人がママをやってて、いつでも来ていいよって言ってくれるの。金欠になると入ってる感じ。今月は特に光熱費がピンチでね…」

瑠璃の声が少し震えた。

「弟たちが双子で、大学費用が結構かさんじゃって。」

祐は黙って頷いた。

「遠くにいるとか?」

瑠璃は苦笑いを浮かべる。

「いや、違うんだけどね。二人とも医学部なの。国立大だけどね。でも、さすがにお金はかかるよ。」

言いながら、瑠璃はグラスを軽く回し、氷の音を聞いていた。

そして、ふっと肩の力を抜くように、諦めたように笑った。

「しょうがないよね。私が働けば済む話だから。」

祐はじっと彼女の横顔を見つめた。どこか切なく、けれど誇らしげに笑う瑠璃が、ますます気になってしかたなかった。

祐はしばらく黙っていたが、ふっと息を吐いてから、低い声で尋ねた。

「…両親は?」

その一言に、瑠璃の手がグラスの縁で止まった。

しばらく視線を落としたまま、氷の音だけがカランと響く。

「……いないの。もう二人とも。」

瑠璃はそう言うと、小さく笑った。けれどその笑顔は、どこか痛々しくて儚い。

「私が家のこと、全部やらなきゃいけなくてさ。」

祐は言葉を失い、ただ彼女を見つめるしかなかった。
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