策士の優男はどうしても湯田中さんを落としたい

12

瑠璃はまだ祐の言葉の余韻に呑まれたまま、放心したように祐を見つめていた。

祐はそんな瑠璃に柔らかく微笑むと、ふっとその顔から手を離す。

「行きましょうか。」

「え……どこに…」

「ホテルですよ。部屋、同じフロアに取ってますよね？」

瑠璃はハッとして小さく首を振った。

「べ、別に一緒に戻る必要なんて——」

「危ないですよ。こんな顔したまま街歩いてたら。」

祐は瑠璃を促すように、そっとその背中に手を添えた。

「誰かに声かけられたらどうするんですか。先輩、ほんと綺麗なんだから。」


小さく呟きながらも、瑠璃は祐に引かれるままに歩き出す。

夜道を並んで歩く。

瑠璃は少し距離を置こうとした。

だが祐は当然のようにその肩にそっと触れる。

「先輩、肩、震えてますよ。」

「震えてない…っ」

「嘘ばっかり。」

祐は、そっと瑠璃の耳元で囁く。

「俺のこと、意識しちゃってるんでしょう？」

瑠璃は赤くなり、小さく祐を肘で突いた。

「もう、黙ってて…」

「はいはい。」

祐は笑いながらも、瑠璃の肩をそっと抱いたまま離さない。

ホテルに着く頃には、瑠璃も少しだけ、その腕に身を委ねるようになっていた。

ホテルに戻ると、フロントで二人は部屋のカードキーを受け取る。

「先輩、部屋まで送りますよ。」

「い、いいってば…」

「俺が安心できないんです。」

廊下を歩きながらも、祐の手は瑠璃の腰に軽く添えられたままだった。

部屋の前まで来ると、祐は小さく笑う。

「じゃあ、今日はおやすみなさい。」

「……ほんとに帰るの？」

思わず零れた瑠璃の声に、祐の瞳が微かに笑いを含む。

「先輩が呼んでくれたら、いつでも入りますよ？」

「……っ！」

瑠璃は慌ててドアを開け、自分の部屋へ飛び込む。

だが扉を閉める直前、祐は柔らかく囁いた。

「夢に出てきますように。」

パタン、とドアが閉まり、瑠璃はその場にしゃがみ込む。

心臓がうるさくて、しばらく立ち上がれなかった。