策士の優男はどうしても湯田中さんを落としたい
レストランバーの帰り道。
夜風が涼しく吹き抜ける街を、二人は並んで歩いていた。
瑠璃は祐から半歩、距離を取るように歩いていた。
「先輩」
祐が呼びかける声は、柔らかいのに妙に低い。
「何」
「なんで、さっきからそんなに距離とるんですか?」
「別に」
「別に、じゃないですよね」
瑠璃は立ち止まった。
「……ねえ。やっぱり、こういうの、やめといた方がいいと思う」
「こういうの、って?」
「こうして二人で会ったり、プライベートで深い話をしたり…祐くんはまだ若いし」
「先輩」
祐の笑顔が、すっと消えた。
代わりに、強い光を宿した瞳が瑠璃を捉える。
「俺、そんなに軽いと思われてたんですね」
「そういうんじゃなくて…」
「じゃあ、なんですか?」
祐が、一歩詰め寄る。
反射的に瑠璃がまた下がると、すかさず祐の腕が伸びた。
「…っ」
細い手首を掴まれた。
強くはないけど、逃げられない力だった。
「先輩。俺、今すっごく怒ってます」
「…なに、いきなり」
「俺は、先輩のこと本気だって、何度も言ってますよね」
「でも…」
「“でも”禁止です」
祐は小さく息を吐き、少しだけ目を伏せた。
そして、顔を上げたときにはまた笑みを浮かべていた。
だがその笑みは甘いのに、どこか冷たくてゾクリとする。
「仕方ない。先輩には、ちょっとお仕置きしないとダメみたいだ」
「…は?」
次の瞬間。
祐は瑠璃をぐいと引き寄せた。
胸がぶつかるほど近い距離。
「えっ…」
「こうやって逃げられないくらい近くにいないと、先輩すぐ俺から離れようとするから」
「祐くん…!」
「ほんとは、今すぐキスしたいですけどね」
囁く声が熱い。
瑠璃の頬がかっと熱くなる。
「でも我慢します。先輩が、俺のことちゃんと信じるまでは」
「……っ」
祐はさらに耳元に唇を寄せ、低く囁いた。
「だから、その代わり――」
瑠璃が息を呑む。
「…これからは“祐”って呼んでください」
「は?」
「二人のときは、君付け禁止。俺の彼女になるんだから、名前で呼んでもらわないと」
「ちょ、ちょっと待って!」
「待ちません。はい、言って」
「い、言わない…」
「じゃあ、離しません」
瑠璃は顔を真っ赤にしたまま、祐の腕の中でもがく。
でも、祐の力は緩まない。
「…祐…」
そのか細い声に、祐はぱっと笑った。
「よくできました」
甘い声でそう言う祐を、瑠璃は真っ赤な顔で睨むしかなかった。
夜風が涼しく吹き抜ける街を、二人は並んで歩いていた。
瑠璃は祐から半歩、距離を取るように歩いていた。
「先輩」
祐が呼びかける声は、柔らかいのに妙に低い。
「何」
「なんで、さっきからそんなに距離とるんですか?」
「別に」
「別に、じゃないですよね」
瑠璃は立ち止まった。
「……ねえ。やっぱり、こういうの、やめといた方がいいと思う」
「こういうの、って?」
「こうして二人で会ったり、プライベートで深い話をしたり…祐くんはまだ若いし」
「先輩」
祐の笑顔が、すっと消えた。
代わりに、強い光を宿した瞳が瑠璃を捉える。
「俺、そんなに軽いと思われてたんですね」
「そういうんじゃなくて…」
「じゃあ、なんですか?」
祐が、一歩詰め寄る。
反射的に瑠璃がまた下がると、すかさず祐の腕が伸びた。
「…っ」
細い手首を掴まれた。
強くはないけど、逃げられない力だった。
「先輩。俺、今すっごく怒ってます」
「…なに、いきなり」
「俺は、先輩のこと本気だって、何度も言ってますよね」
「でも…」
「“でも”禁止です」
祐は小さく息を吐き、少しだけ目を伏せた。
そして、顔を上げたときにはまた笑みを浮かべていた。
だがその笑みは甘いのに、どこか冷たくてゾクリとする。
「仕方ない。先輩には、ちょっとお仕置きしないとダメみたいだ」
「…は?」
次の瞬間。
祐は瑠璃をぐいと引き寄せた。
胸がぶつかるほど近い距離。
「えっ…」
「こうやって逃げられないくらい近くにいないと、先輩すぐ俺から離れようとするから」
「祐くん…!」
「ほんとは、今すぐキスしたいですけどね」
囁く声が熱い。
瑠璃の頬がかっと熱くなる。
「でも我慢します。先輩が、俺のことちゃんと信じるまでは」
「……っ」
祐はさらに耳元に唇を寄せ、低く囁いた。
「だから、その代わり――」
瑠璃が息を呑む。
「…これからは“祐”って呼んでください」
「は?」
「二人のときは、君付け禁止。俺の彼女になるんだから、名前で呼んでもらわないと」
「ちょ、ちょっと待って!」
「待ちません。はい、言って」
「い、言わない…」
「じゃあ、離しません」
瑠璃は顔を真っ赤にしたまま、祐の腕の中でもがく。
でも、祐の力は緩まない。
「…祐…」
そのか細い声に、祐はぱっと笑った。
「よくできました」
甘い声でそう言う祐を、瑠璃は真っ赤な顔で睨むしかなかった。