策士の優男はどうしても湯田中さんを落としたい

瑠璃は祐を睨みながらも、まだ祐の腕から逃げられずにいた。

「祐くん、もう離して。人に見られたら…」

「人目なんかどうでもいいですよ」

「よくないでしょっ」

祐は小さく笑った。
その目は、どこまでも真剣で、どこまでも甘い。

「じゃあ…人目がないところ、行きますか？」

「は？」

「ホテル、取りましょうか」

「……っ」

瑠璃の顔が真っ赤になる。

「冗談じゃないでしょ！！」

「冗談じゃないです」

祐の声は低く、微笑んでいるのにまるで逃げ場を塞ぐような響きだった。

「先輩、俺とここまで話して、俺の気持ち知ってて…まだ“会社の後輩だから”って思ってるんですか？」

「だって…っ」

「俺はもう、先輩をただの上司だとも、指導役だとも思ってない」

祐はじっと瑠璃の瞳をのぞき込む。

「俺が本気で、先輩を手に入れたいって言ったら、そんなに困りますか？」

「……祐くん」

「俺と一緒にいるだけで、もうバレバレですよ。先輩だって、俺のこと意識してる」

「してない！」

「してます」

祐はきっぱり言い切った。
そして、さらに追い討ちをかけるように、瑠璃の耳元に低く囁いた。

「先輩、俺とホテル行くのそんなに嫌ですか？」

「っ……」

「ちゃんとキスだけで終わらせるって約束します」

「うそつけ」

「嘘じゃないです。……たぶん」

「たぶん、ってなに！」

祐は笑って、瑠璃の頬にそっと手を添えた。

「先輩が俺を受け入れてくれるなら、何もしません。でも、もし先輩が、俺を欲しそうな顔したら――話は別です」

「……！！」

瑠璃は完全に言葉を失い、唇を噛んだ。
祐はそんな瑠璃を、優しく抱き寄せる。

「どうしますか？先輩」

瑠璃はしばらく俯いたまま黙っていたが、小さく振り切るように言った。

「帰る」

「じゃあ、送っていきます。駅まで――いや、家まで送らせてください」

「いい。ひとりで帰る」

「ダメです」

祐の手が、また瑠璃の手をしっかりと掴む。

「先輩が一人で帰るなら、俺も一緒に行きます。家まで」

「ちょ、ちょっと！」

「じゃあホテルで話しましょう」

「なんでそうなるの！！」

祐はまたにやりと笑う。

「俺がどれだけ先輩のこと好きか、もっとちゃんとわかってほしいんです」

瑠璃は完全に真っ赤になりながら、祐を睨んだ。

「祐くん、ほんとに調子乗りすぎだから！！」

「それ、褒め言葉ですよ」

祐は涼しい顔でそう言った。