策士の優男はどうしても湯田中さんを落としたい

14

「祐くん、ほんとに調子乗りすぎだから!!」

瑠璃はそう言いながらも、祐の手を振り払えずにいた。
祐は瑠璃の目をまっすぐに見つめ、声を落とす。

「先輩」

「……なに」

「俺、もう我慢できないです」

「っ」

「先輩が困った顔するたび、泣きそうな顔するたび、綺麗で…抱きしめたくてたまらなくなるんです」

「や、やめて…」

「やめられないです」

祐の瞳は笑っているのに、熱を帯びていて、逃げ道を塞ぐように鋭い。
瑠璃は一度、必死に顔を背けたが、ほんの少しだけ、震える声で呟いた。

「……ほんとに、キスだけ?」

祐は一瞬、目を細めて微笑んだ。

「……先輩次第です」

「だから、その“先輩次第”ってやめてよ…」

「俺は先輩の嫌がることは絶対しません。でも、もし先輩が俺を欲しい顔したら、止められる自信はないです」

瑠璃は唇を噛んだ。
そして、一度大きく息を吐いて祐を睨む。

「祐くん。……もし、私が“帰る”って言ったら?」

「泣きそうな顔して帰る先輩を俺は絶対放っておけません」

「……っ」

祐は、まるで子供のように、でも一番大人びた目で瑠璃を見つめた。

「俺と一緒にいてください。先輩」

「…………」

沈黙の中で、瑠璃はゆっくり視線を落とした。
そして小さく、諦めたように言った。

「……わかった。……行く」

祐の瞳が、一瞬で深い光を灯した。

「ほんとですか?」

「でも…」

瑠璃は祐の胸を指先で突いた。

「ほんとにキスだけだからね!!」

「……わかりました」

祐はにやりと笑った。
その笑顔は、瑠璃の不安を煽るほど自信に満ちていた。

「俺、キスだけでも十分満足ですから」

「絶対うそだ…!」

「じゃあ、行きましょう。先輩」

祐は瑠璃の手を引いて、ホテル街の方へ歩き出した。
瑠璃は真っ赤な顔で、小さくうなだれながら、されるがままついて行った。
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