策士の優男はどうしても湯田中さんを落としたい

4

「遅かったじゃん、中瀬くーん!」

祐が席に戻ると、隣に座っていた嬢が小さく唇を尖らせた。
明るい色の髪、ふわっとしたドレス。
目をぱちぱち瞬かせて、少し甘えたように腕を絡めてくる。

「ああ、ごめん」

祐は柔らかく笑って、自然に嬢の手をほどいた。
代わりに、テーブルの上のグラスにシャンパンを注ぐ。
手慣れた動きで、泡が立ちすぎないように。

「やだ〜、優しい!」


嬢がキャハっと笑い、上司たちも「やっぱ中瀬は違うなぁ!」と盛り上がる。
場は何も問題なく回っていく。
祐は笑いながら、愛想よく返事をする。

──けれど。

視線はずっと、遠くの卓を追っていた。

(先輩…)

黒髪をゆるく巻いた、あの“別人みたいな”女。
笑顔を絶やさず、グラスを傾け、男たちの話に華を添える。

その仕草の端々に、祐には分かる。
瑠璃だ。

仕事の資料を差し出すときの、指先の緊張。
無意識に眉間にしわを寄せる癖。
そして、笑顔の下に張り詰めた空気。

(先輩、あんな顔もできるんだな)

祐は、笑いながら隣の嬢に答える。

「え、最近ハマってること?…趣味を探すことかな」

「なにそれ〜!」

「一緒にする?」

口では適当なことを言いながらも、視線は遠くにいる瑠璃に吸い寄せられていた。

──彼女が、明らかに、そのテーブルの接待であろう、今日一番満足してもらわないといけない対象者の横に座る。
肩を寄せ、ドレスの裾を引き寄せる仕草に、男たちが沸いているのがわかった。

祐はそのたびに、胸の奥がざわつくのを感じていた。

(なんでこんなにムカつくんだよ)

自分でも、まだ答えは出なかった。
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