策士の優男はどうしても湯田中さんを落としたい

5

湯田中瑠璃──いや、“キャバ嬢”の彼女は、完璧な営業スマイルを浮かべた。
声もワントーン高く、いつもの先輩とはまるで別人のよう。

祐もまた、穏やかな笑みを返す。

「こちらこそ。お名前、なんて言うの?」

「ルカです」

先輩が、涼しげに名乗った。

「そっか。ルカちゃん、かわいい名前」

祐はその名前をわざとゆっくり口にしながら、卓上のベルをチリンと鳴らす。
すぐスタッフが来て、祐はさらりと高いボトルを注文する。

「じゃあ、ルカちゃん。乾杯しよっか」

「うれしい。ありがとうございます」

二人とも微笑みを浮かべたまま、グラスが軽く当たる。
シャンパンの泡が細かく立ち昇る音だけが、個室に響いた。

──数秒の沈黙。

そして祐が、声を落とす。

「…先輩、疲れた顔してますよ?」

瑠璃の笑顔が、一瞬だけピクリと固まった。
だが、すぐに作り笑いが戻る。

「ふふっ…お客さま、なんのことですか?」

祐の瞳が、じわりと鋭く細められる。

「──先輩って、他の男の前でそんな短いスカート履くんですか?」


今度はほんの一瞬、瑠璃が息を呑んだ。
でもすぐに、慣れた嬢の顔で笑う。

「お客さま、女の子をからかうのはダメですよ」

「からかってない。俺、ずっとイライラしてたんで」

祐の声が低く落ちる。
柔らかい笑みは崩さないまま、目だけがひどく冷たい。

「先輩が、俺のこと他の客と同じに扱ったのが。…面白くないんですよ」

グラスを置く音が、やけに大きく響いた。
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