色褪せて、着色して。~番外編~
人の声がまったくしない。
静かな空間のせいで。
ナズナは心臓の音がマヒルに聞こえるのではないかと思った。
「さっきさ、ここからいなくなるって言ったけど。どういうこと?」
この国では見慣れない青い瞳がナズナをとらえる。
ナズナは、そうだった…と姿勢を正した。
もう、今日しかマヒルと話すチャンスはないのだ。
「僕たち…僕とセリとキキョウと。カイはちょっとわかんないですけど。初めから3年間の雇用契約をユキ様と結んでいるんです」
「3年? 延長は出来ないの?」
「はい。秘密の館で働く人間は一時的なものなんです」
「うん? どういうこと」
ナズナはマヒルを見たが、緊張するので目をそらした。
「騎士団学校を卒業できなかった僕らはユキ様に雇ってもらって。3年間、働きながら本当の就職先を見つけるんです」
「えっ…」
マヒルは固まってしまった。
ナズナはあれ? 変なことを言ってしまっただろうかと不安になった。
「僕の場合、大学に合格したので。秘密の館を出たら、大学に行きます」
「大学って…ナズナくん何歳だっけ?」
「今年で16歳です」
「ひえ~。うちの国じゃ高校を卒業して19歳から大学に入学するのがフツーだけど。この国は違うのかな」
「そうですね。15歳までが一般教育というか…一般教養というか学校に通って。16歳から、それぞれ大学や専門学校に通っています」
「ナズナくんの専攻は何?」
「…僕は、弁護士になるために法律を学びます」
ナズナがマヒルを見ると。
マヒルは「すごい」と言って小さく拍手をした。
「みんな、大学に行くの?」
「いいえ。セリは料理人になるために城下町の食堂で働くって言ってましたし、キキョウは大工になりたいから、ここを出てジョイさんのお父さんのところで働くって言ってました」
すべて、就職先や学校の手続きは秘密の館で暮らすユキがしてくれた。
厳しいことを言うこともあるが、ユキは最後まで面倒を見てくれる。
「ユキ様に出会わなかったら、僕は自ら命を絶っていたかもしれません」
急な告白に、マヒルは黙り込んだ。
ナズナは慌てて「ごめんなさい」と謝った。
「あのね、ナズナくんの過去については聞いて大丈夫なのかな?」
「え、勿論大丈夫ですよ。隠してませんし」
「そう。じゃあ、学校を卒業できなかったというのは?」
「僕、生まれつき身体が弱くて。15歳まで生きられるかもわからないって言われてて…」
再び投下された重い告白にマヒルの顔は青ざめていく。
「あの、大丈夫ですか。こういう暗い話って?」
「うん、大丈夫。続けて」
「僕の家、貴族の家で…ああ、なんかマヒル様に言うのも変ですけど。代々、ちゃんとした家柄だったから。長男だった僕は生まれた時に跡取りとして決まっていたんですけど。身体が弱かったから、すぐに父に見放されて」
上手く話せているだろうか…ナズナはふぅ…と一回深呼吸をする。
「物心ついた頃には、家族から切り離されたところで暮らしていて…弟が生まれて。両親は弟を跡取りと決めて。それはもう、可愛がっていて…僕は悔しくて、家族を見返したくて。自分は弱くなんかない。ちゃんと跡取りになれるって思って…考えて。騎士になろうと考えました」
「そう…」
「同い年の人間と比べたら、体力がない上にすぐに熱を出す。教室にいるより、医務室で過ごしている時間が多かったと思います。まあ、それで最終学年のとき、完全に入院しちゃってドクターストップがかかって…」
「偉いね。最後まで諦めなかったんだ」
マヒルの優しい言葉に、ナズナは思わず泣きそうになった。
「努力しても無駄だったということをその時初めて知りました」
「それで…おうちには帰れなかったの?」
「はい。父に勘当されて…身体が弱いって初めからわかっているのに、騎士団学校になんて入るなと罵倒されて。我が家の恥だと」
「ひどい…」
「行く当てがないので。僕の人生、本当にそこで終わりだと思ってました…。でも、病院でユキ様と初めて会って…、ユキ様は行く当てのない人達に手を差し伸べてくれる人で。3年間だけチャンスをくれるって言いました」
「なんか、3年間っていうのも酷い話な気がするけど…」
涙目だったかと思えば、マヒルはすぐに怒ったような表情をする。
「いえ、充分です。この国には僕らみたいな騎士になりそこなった子たちが沢山いると思うんです。僕らがいなくなったら、また新しく卒業できなかった子たちが入ってきます」
「…そっかあ」
「ユキ様は本当はすべての子たちに手をさしのべてあげたいって言っていました。でも、自分の力では今の人数が限界だって。仕事に関しては厳しい人だったけど。良い人です」
マヒルは腕を組んで、「そうかなあ」と呟いた。
「ナズナくんは、本当に大人だね」
「ありがとうございます」
ぺこりとナズナが頭を下げると。
マヒルは笑った。
「マヒル様、ナズナ様。お茶のご用意ができました」
タイミングを見計らったかのように。
バニラがやってきて、声をかける。
「ナズナ、おめーさっきから顔色悪いんだから。しっかりと食えよ」
トペニの言葉に、カチンときたナズナだったが。
確かに緊張しっぱなしで疲れているのは確かだった。
喉もカラカラだったので、バニラが淹れてくれたお茶が身体にしみた。
静かな空間のせいで。
ナズナは心臓の音がマヒルに聞こえるのではないかと思った。
「さっきさ、ここからいなくなるって言ったけど。どういうこと?」
この国では見慣れない青い瞳がナズナをとらえる。
ナズナは、そうだった…と姿勢を正した。
もう、今日しかマヒルと話すチャンスはないのだ。
「僕たち…僕とセリとキキョウと。カイはちょっとわかんないですけど。初めから3年間の雇用契約をユキ様と結んでいるんです」
「3年? 延長は出来ないの?」
「はい。秘密の館で働く人間は一時的なものなんです」
「うん? どういうこと」
ナズナはマヒルを見たが、緊張するので目をそらした。
「騎士団学校を卒業できなかった僕らはユキ様に雇ってもらって。3年間、働きながら本当の就職先を見つけるんです」
「えっ…」
マヒルは固まってしまった。
ナズナはあれ? 変なことを言ってしまっただろうかと不安になった。
「僕の場合、大学に合格したので。秘密の館を出たら、大学に行きます」
「大学って…ナズナくん何歳だっけ?」
「今年で16歳です」
「ひえ~。うちの国じゃ高校を卒業して19歳から大学に入学するのがフツーだけど。この国は違うのかな」
「そうですね。15歳までが一般教育というか…一般教養というか学校に通って。16歳から、それぞれ大学や専門学校に通っています」
「ナズナくんの専攻は何?」
「…僕は、弁護士になるために法律を学びます」
ナズナがマヒルを見ると。
マヒルは「すごい」と言って小さく拍手をした。
「みんな、大学に行くの?」
「いいえ。セリは料理人になるために城下町の食堂で働くって言ってましたし、キキョウは大工になりたいから、ここを出てジョイさんのお父さんのところで働くって言ってました」
すべて、就職先や学校の手続きは秘密の館で暮らすユキがしてくれた。
厳しいことを言うこともあるが、ユキは最後まで面倒を見てくれる。
「ユキ様に出会わなかったら、僕は自ら命を絶っていたかもしれません」
急な告白に、マヒルは黙り込んだ。
ナズナは慌てて「ごめんなさい」と謝った。
「あのね、ナズナくんの過去については聞いて大丈夫なのかな?」
「え、勿論大丈夫ですよ。隠してませんし」
「そう。じゃあ、学校を卒業できなかったというのは?」
「僕、生まれつき身体が弱くて。15歳まで生きられるかもわからないって言われてて…」
再び投下された重い告白にマヒルの顔は青ざめていく。
「あの、大丈夫ですか。こういう暗い話って?」
「うん、大丈夫。続けて」
「僕の家、貴族の家で…ああ、なんかマヒル様に言うのも変ですけど。代々、ちゃんとした家柄だったから。長男だった僕は生まれた時に跡取りとして決まっていたんですけど。身体が弱かったから、すぐに父に見放されて」
上手く話せているだろうか…ナズナはふぅ…と一回深呼吸をする。
「物心ついた頃には、家族から切り離されたところで暮らしていて…弟が生まれて。両親は弟を跡取りと決めて。それはもう、可愛がっていて…僕は悔しくて、家族を見返したくて。自分は弱くなんかない。ちゃんと跡取りになれるって思って…考えて。騎士になろうと考えました」
「そう…」
「同い年の人間と比べたら、体力がない上にすぐに熱を出す。教室にいるより、医務室で過ごしている時間が多かったと思います。まあ、それで最終学年のとき、完全に入院しちゃってドクターストップがかかって…」
「偉いね。最後まで諦めなかったんだ」
マヒルの優しい言葉に、ナズナは思わず泣きそうになった。
「努力しても無駄だったということをその時初めて知りました」
「それで…おうちには帰れなかったの?」
「はい。父に勘当されて…身体が弱いって初めからわかっているのに、騎士団学校になんて入るなと罵倒されて。我が家の恥だと」
「ひどい…」
「行く当てがないので。僕の人生、本当にそこで終わりだと思ってました…。でも、病院でユキ様と初めて会って…、ユキ様は行く当てのない人達に手を差し伸べてくれる人で。3年間だけチャンスをくれるって言いました」
「なんか、3年間っていうのも酷い話な気がするけど…」
涙目だったかと思えば、マヒルはすぐに怒ったような表情をする。
「いえ、充分です。この国には僕らみたいな騎士になりそこなった子たちが沢山いると思うんです。僕らがいなくなったら、また新しく卒業できなかった子たちが入ってきます」
「…そっかあ」
「ユキ様は本当はすべての子たちに手をさしのべてあげたいって言っていました。でも、自分の力では今の人数が限界だって。仕事に関しては厳しい人だったけど。良い人です」
マヒルは腕を組んで、「そうかなあ」と呟いた。
「ナズナくんは、本当に大人だね」
「ありがとうございます」
ぺこりとナズナが頭を下げると。
マヒルは笑った。
「マヒル様、ナズナ様。お茶のご用意ができました」
タイミングを見計らったかのように。
バニラがやってきて、声をかける。
「ナズナ、おめーさっきから顔色悪いんだから。しっかりと食えよ」
トペニの言葉に、カチンときたナズナだったが。
確かに緊張しっぱなしで疲れているのは確かだった。
喉もカラカラだったので、バニラが淹れてくれたお茶が身体にしみた。