色褪せて、着色して。~番外編~
 はじめて、マヒルに出逢ったときのことをナズナは鮮明に覚えている。
 秘密の館に来客など滅多に来ない。
 来るとしたら、騎士のお偉いさんだったし。
 その騎士のお偉いさんはナズナたちを見るたびに蔑むような、汚いものをみるような目で見てきて、「さっさと消えろ」と言ってきた。

 館の主人であるヒサメの妻、カスミが迎え入れた来客は。
 海外の人間で、見た目は本当に女神様ではないかとナズナは驚いたものだ。
 一目惚れ…という言葉がふさわしかった。
 マヒルを好きになったと同時に、カイに対する嫉妬が腹の底から吹き出していった。

「今日は、本当にありがとうございました」
 楽しい時間というのは、一瞬で終わってしまう。
 マヒルの家に戻った一行は、家の前で別れの挨拶をしていた。
「マヒル様との思い出は一生、忘れません。ありがとうございました」
「うん…」
 急に元気のないマヒルは、じっとナズナを眺める。
「ナズナくん」
「はい」
 呼ばれて返事をしたナズナに。
 マヒルは思いっきりナズナを抱きしめた。
 ぎゅう…と抱きしめたかと思えば、マヒルは「またね」と言って家に入ってしまう。

「さみしいんですわね。きっと…」
 残されたバニラがフォローするように言った。
「そんなことないですよ。僕なんて…」
「いいえ。マヒル様は見た目以上に繊細ですから。さみしがりやなのですよ」
 ふふ…とバニラが微笑む。
「ナズナ様たちと出会えて、マヒル様はとても嬉しそうにしておりました。ナズナ様、お世話になりました」
 バニラが頭を下げたので、ナズナは慌てた。
「こっちが世話になりました」
「ふふ…。また、いつかお会い出来ますよう…」
「おう。ナズナ。俺が寮まで送って行ってやる」
 完全に存在を忘れていたトペニを見て、今までの幸せな時間が夢だったのかとナズナは錯覚するのであった。

「別にいいのに…」
 馬に乗って2人は寮へと向かっていた。
「あのね、俺だってナズナに別れの挨拶してえし。いや、別れの挨拶っていう言葉。俺は嫌いだからな」
「…珍しく話が合いましたね。僕もです」
「ナズナはよ、頭が良いんだから。絶対にまた会える気がするな」
「どういう基準ですか」
 呆れ返ってナズナが言うが。
 なんとなく、トペニとはまた会えそうな…不思議とそんな予感がしたのだった。
「マヒル様になにかあったら、僕。トペニさんのこと許しませんから」
「なんじゃそりゃ」
 アハハと目の前でトペニが笑う。
 馬だとすぐに寮に着いてしまった。

「トペニさん」
「おう」
 馬を降りて、ナズナは頭を下げた。
「もし、再会できたら、あのシチュー作ってください」
< 49 / 49 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

色褪せて、着色して。8.5~スノードロップ編~

総文字数/2,160

ファンタジー4ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
色褪せて、着色して。Ⅷ~スノードロップ編~ のつづきです。 短いです。 フォロワー様のみの閲覧となります。
色褪せて、着色して。Ⅷ~スノードロップ編~

総文字数/21,717

ファンタジー34ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
スノードロップの花言葉を知っていますか? 一つは、希望。 一つは・・・・・・。 【マヒル】 主人公。 金髪碧眼、自他ともに認める美人。 ピアニスト。 【太陽】 マヒルの夫。 国家騎士であり、国王の側近。 仕事が多忙すぎて常に家には居なかったが…? 【スズメ】 マヒルの護衛。 根っからの真面目。 【トペニ】 マヒルの護衛。 元罪人。 チャラいのと、あえて空気を読まない男。 【オーロラ姫】 ???
色褪せて、着色して。Ⅵ~黒薔薇編~

総文字数/40,782

ファンタジー68ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
【マヒル】 主人公。 金髪碧眼で美人。 ワケあって、王家の領地で暮らしている。 肩書は国王の寵姫で、ピアニスト。 【太陽】 マヒルの夫。 国家騎士団に所属。 仕事が忙しく、ほとんど家には帰らない。 マヒルとも、あまり顔を見合わせない。 【バニラ】 マヒルの侍女。 ピンク色の髪の毛に真っ赤な瞳。 家事を完璧にこなし、誰とでも仲良くなれる。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop