妹に婚約者を奪われましたが、皇太子殿下に一途に愛されています
「レイモンド、子供じゃないわよ。そんなに強く握らなくても」

くすりと笑って見上げると、彼は少し照れたように、けれど真剣な顔で言った。

「君は美しいからね。誰かにさらわれたら大変だ」

――そんなこと、冗談のように言って。

けれど、彼の目は笑っていなかった。

そのまなざしの奥にある何かに、私はふと戸惑いを覚えた。

それでも、そんなふうに言ってくれる彼が、やっぱり優しいと思った。

きっと、この人となら大丈夫。

そう思っていた。

――この時までは。

するとレイモンドは、ふいに何かを見つけたように視線を向けた。

「どうしたの?」

私が尋ねると、彼は言った。

「カリーナが、壁際にいる。きっと誰も声をかけてくれないんだ」

妹の名を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。

「だから、少しだけ――」

「待って、行かないで」

私は思わず、彼の腕を掴んでいた。
< 8 / 9 >

この作品をシェア

pagetop