15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜
視線を上げると、そこに彼女がいた。

「……さくら。」

思わず、名前が漏れた。

久しぶりに見る彼女の姿。変わっていなかった。

さらりと肩にかかる髪、淡いピンクのリップ、控えめな装い。

まるで、季節が一巡しても、彼女だけはそのまま時間の中に取り残されているようだった。

「久しぶり。」

さくらがそう言って、穏やかに笑う。

私は一瞬、呼吸を忘れた。

こんなふうに、3人が同じテーブルに座ることが、もう二度とないと思っていたから。

「元気だった?」

彼女の問いかけは優しかった。けれど、その目の奥が探るように揺れていた。

私の視線が、さくらの左手に自然と移る。白く細い指。薬指には、なにもなかった。

けれど──。

私はそっと息を吐きながら、曖昧に笑った。

「うん、元気にしてたよ。」

きっと誰もが、平静を装っていた。

この再会が、誰かの心を少しずつ崩していることに気づきながら。
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