私のテディベアに、私が溺愛されるまで
「乾杯」

琥珀色の液体を注いだグラスを、カチンと軽く合わせた。
一朗は深く一口飲み、スモーキーな余韻に目を細める。

「うまいな……」

楓も、一朗のグラスをじっと見つめていた。

「ねぇ、ちょっとだけ……」

「だーめ。おまえ弱いだろ」

「一口だけっ!」

一朗はしぶしぶグラスを差し出す。
楓はほんのひとくち口に含み、目をまんまるにした。

「わ……!くるね、これ……」

「だから言ったろ」

二人はそんな風に笑い合いながら、料理をつまむ。

「今日、会社でさー、先輩が派手に上司に怒られてさ……」
「おまえも気をつけろよ」

「わかってるよー。でも、あれは私じゃ無理だわ」

なんてことない日常の話が続く。

時計の針はいつの間にか深夜をまわり、
ふと気づくと、一朗はソファに座っていた。

そして、隣にいる楓は、一朗の肩にもたれかかって静かに寝息を立てている。

長い髪がさらりと一朗の腕をかすめる。
寝顔は、まだ子どもの頃のままのように無防備で、愛おしさが胸をかき立てた。

一朗はゆっくり息を吐く。
琥珀色のグラスを見つめながら、ひとり言のように小さく呟いた。

「……可愛いんだから、ホント気をつけろよ」
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