私のテディベアに、私が溺愛されるまで

10

陸の真剣な言葉が、一朗の胸にずしりと残った。

その夜、一朗は遅くまで眠れなかった。
陸の「考察してみろ」という言葉が、ずっと頭を離れなかった。

そして――

あの日から、一朗は楓を観察することにした。

何気ない仕草。
人と話すときの表情。
笑うときの目元のしわ。
そして、自分を見つめるときの、あの真っ直ぐすぎる視線。

以前なら気にも留めなかった小さなことが、やけに心に引っかかる。

(……こんな顔、昔はしてなかったな)

気づけば、一朗の目は無意識に楓を追うようになっていた。

今日は、休日の昼下がり。
隣の湯田中家の庭先から、バサバサと洗濯物を干す音が聞こえてきた。

少しして、窓を開けると、ちょうど楓が物干し竿を持ち上げているところだった。

風に揺れる長い髪が、光を受けてさらさらときらめいている。
Tシャツにデニムの短パン。
素足にサンダル。

その格好が、やけに大人びて見えたかと思えば、子どもみたいに無防備にも見える。

(……昔は、どんなに短い髪でも、全力でツインテールにしてたのに)

ふと、そんな昔の楓の姿を思い出して、一朗は小さく笑う。

楓は干し終わると、フェンス越しにこちらを見つけた。

「あっ! 一朗ー!」

手を振る仕草は、昔と変わらない。

ただ、その笑顔の奥に、少しだけ揺らぎが見える。
陸の言葉が蘇る。

> 「楓、小さい頃からずっと本気だよ?」


(……本当に、そうなのか)

一朗は目をそらせず、黙って楓を見つめ続けていた。

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