私のテディベアに、私が溺愛されるまで
楓の無邪気な笑顔をまともに見るのが、なぜか苦しくなる。

「……ああ」

一朗はそう答えると、すっと視線を外した。

楓が一瞬きょとんとした顔をする。

「え、なに? こっち見てよー」


楓の声が、窓越しに響く。

一朗は部屋の中で、カーテンの陰に身を隠すように立っていた。
窓は少しだけ開いていて、夏の匂いとともに楓の声が入ってくる。

「ねぇ、顔見せてってば!」

外では、楓が庭に立ち、窓をじっと見上げている。
髪が風に揺れて、陽の光を反射していた。

一朗は俯いたまま、窓際の壁に指を押しつけた。

(……なんで、こうなるんだよ)

目を合わせるのが、怖い。
今までそんなこと一度もなかったのに。

「ねぇ! 一朗、最近変だよ?」

楓の声が、少しだけ不安そうに揺れる。

「別に」

短く返すが、声がかすれてしまう。

楓は窓の外で、困ったように笑った。

「隠れないでよー。窓、開けて!」

一朗は少しだけ顔を上げる。
窓の向こうの楓の瞳が、まっすぐこちらを射抜いていた。

その視線に、一朗は思わずまた俯いてしまった。
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