私のテディベアに、私が溺愛されるまで
一朗が必死に話題を逸らそうとするのを、楓はしばらくじっと見ていた。

そして、小さく息をつくと、真剣な顔で口を開いた。

「……一朗」

「ん?」


一朗は言葉を失い、思わず視線をそらす。

楓はフェンス越しに、さらに一歩近づいた。

「ねぇ、ほんとは、何かあったの?」

その声には、微かに揺れる不安が混じっていた。

「なんかさ、一朗、最近ずっとよそよそしいし……」

一朗はカーテンの端を掴んだまま、黙り込んだ。

「……私、嫌われたのかなって、思っちゃうじゃん」

楓の瞳は、窓越しでもはっきりわかるくらい、真剣で切実だった。


一朗は口を開きかけたが、言葉が出ない。

(嫌ってるどころか……)


頭の中で必死に言葉を探す。
でも、出てくるのは真実ばかりで、それを口にする勇気がない。

(意識して、話ができない――なんて、言えるわけないだろ)


「……別に、そういうんじゃ――」

と、そのときだった。

「楓と……一朗にい?」

陸の声がした。


「なに、イチャついてんの?」

陸は涼しい顔で腕を組み、二人を交互に見やった。

一朗は思わず顔をしかめた。

「……誰がイチャついてるんだ」

「じゃあ、何その空気」

陸はわざとらしく眉を上げると、楓の方に視線を送った。

「楓、泣きそうじゃん」

楓は慌てて首を横に振った。

「泣いてないっ!」

でも、その瞳はうっすら潤んでいた。
楓は必死に笑顔を作ったけれど、声が少し震えていた。

陸はそれを見逃さなかった。

「……一朗にい」

陸の声が、急に低くなった。

「楓、泣かすなよ」

一朗は目を見開く。

「泣かせてねぇよ」

「じゃあ、何で楓がこんな顔してんだよ」

楓の肩をポンと叩く。

「楓はな、うるさいしドジだけど、嘘つけないし、顔に全部出るんだよ」

「……陸。いいすぎ」

楓が小さな声で制止する。

「だからさ」

陸は一朗を真っすぐに見据えた。

「はぐらかしてばっかじゃなくて、ちゃんと向き合えば?」

一朗は何も言い返せず、ただ視線をそらした。
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