私のテディベアに、私が溺愛されるまで
2
乱暴に「アホ」と言い捨てて、台所に戻った一朗は、シンクの前でしばらく動けずにいた。
手元のグラスをつかむが、飲む気になれず、そのまま置く。
(……なんだ、今の楓の顔)
さっき、鎖骨に指が触れた瞬間。
楓の体がかすかに震えて、頬を真っ赤にして下を向いた。
その顔が、頭から離れなかった。
(妹だろ、楓は。ずっと……)
楓は、小さい頃からいつも自分に懐いてきた。
泣けば抱っこをせがみ、寒ければポケットに手を突っ込んできた。
あの頃の楓は、ただの子どもで、自分にとっても守るべき妹みたいな存在だった。
でも――最近の楓は、なんだか違う。
会社帰りで少し疲れた顔も、緩めたシャツから覗いた鎖骨も、子どもの頃の面影なんかなくて。
(女、なんだよな……)
さっきボタンを留めながら、思わず指が触れた細い骨と柔らかい肌。
あの一瞬の感触が、まだ指先に残っている気がして、一朗は思わず手を握りしめた。
(馬鹿か、俺)
自分は楓にそんな目を向けるべきじゃない。
ずっと想い続けてきたのは瑠璃だ。
瑠璃のことは、昔から――
(……けど、瑠璃は何か隠してる。あいつ、泣いてるのか)
楓の言葉が耳に残る。
泣いている瑠璃の顔なんて、想像したくなかった。
そのくせ心の奥がざわざわして、落ち着かない。
一朗は無言で蛇口をひねり、水を出して皿を洗い始めた。
泡立つ洗剤の匂いで、少しだけ現実に戻れる気がした。
けれど背後では、まだ楓の気配がしていた。
振り返りたくなかった。
今振り返ったら、また楓の顔を真剣に見てしまいそうだったから。
手元のグラスをつかむが、飲む気になれず、そのまま置く。
(……なんだ、今の楓の顔)
さっき、鎖骨に指が触れた瞬間。
楓の体がかすかに震えて、頬を真っ赤にして下を向いた。
その顔が、頭から離れなかった。
(妹だろ、楓は。ずっと……)
楓は、小さい頃からいつも自分に懐いてきた。
泣けば抱っこをせがみ、寒ければポケットに手を突っ込んできた。
あの頃の楓は、ただの子どもで、自分にとっても守るべき妹みたいな存在だった。
でも――最近の楓は、なんだか違う。
会社帰りで少し疲れた顔も、緩めたシャツから覗いた鎖骨も、子どもの頃の面影なんかなくて。
(女、なんだよな……)
さっきボタンを留めながら、思わず指が触れた細い骨と柔らかい肌。
あの一瞬の感触が、まだ指先に残っている気がして、一朗は思わず手を握りしめた。
(馬鹿か、俺)
自分は楓にそんな目を向けるべきじゃない。
ずっと想い続けてきたのは瑠璃だ。
瑠璃のことは、昔から――
(……けど、瑠璃は何か隠してる。あいつ、泣いてるのか)
楓の言葉が耳に残る。
泣いている瑠璃の顔なんて、想像したくなかった。
そのくせ心の奥がざわざわして、落ち着かない。
一朗は無言で蛇口をひねり、水を出して皿を洗い始めた。
泡立つ洗剤の匂いで、少しだけ現実に戻れる気がした。
けれど背後では、まだ楓の気配がしていた。
振り返りたくなかった。
今振り返ったら、また楓の顔を真剣に見てしまいそうだったから。