私のテディベアに、私が溺愛されるまで
一朗は無言で皿を洗い続けた。
泡立つ洗剤の香りが、妙に強く鼻を突く。
それでも、後ろにいる楓の気配がどうしても消えない。
「……一朗」
不意に、小さな声が背中越しに届いた。
次の瞬間、柔らかなものがそっと一朗の背中に触れた。
楓が、そっと体を預けるようにぺたりとくっついてきた。
「ちょ、おい……楓」
一朗は慌てて振り返ろうとするが、楓は背中にぴったり張りついたまま動かない。
「だって……さっきから、一朗、なんか怖い顔してる」
楓の声は小さく震えていた。
息が背中にかかるほど近くて、一朗は思わず息を詰める。
「怖くなんか……」
「してる。ずっと難しい顔してる」
楓の指が、一朗のシャツの裾をくしゃっと握る。
その指先がかすかに冷たい。
「……楓」
一朗はごくりと唾を飲んだ。
振りほどかなくちゃと思うのに、背中に感じる楓の体温が心地よくて、動けなかった。
「私、一朗のこと怒らせた……?」
楓の声が少し泣きそうになる。
「別に怒ってねえよ」
一朗は短く答えたが、声がうまく出せない。
自分でもどうしたいのか、わからなかった。
楓はそっと顔を上げ、一朗の背中に額をくっつける。
「……一朗は、やっぱりお姉ちゃんのこと、心配なんだね」
「当たり前だろ。あいつ、昔から無理するから」
「そっか……」
楓の声が小さくなる。
その小ささが、一朗の胸を妙に締めつけた。
「なあ、楓」
「……なに?」
「いい加減、離れろ」
ようやく絞り出したその言葉は、情けないほど弱かった
泡立つ洗剤の香りが、妙に強く鼻を突く。
それでも、後ろにいる楓の気配がどうしても消えない。
「……一朗」
不意に、小さな声が背中越しに届いた。
次の瞬間、柔らかなものがそっと一朗の背中に触れた。
楓が、そっと体を預けるようにぺたりとくっついてきた。
「ちょ、おい……楓」
一朗は慌てて振り返ろうとするが、楓は背中にぴったり張りついたまま動かない。
「だって……さっきから、一朗、なんか怖い顔してる」
楓の声は小さく震えていた。
息が背中にかかるほど近くて、一朗は思わず息を詰める。
「怖くなんか……」
「してる。ずっと難しい顔してる」
楓の指が、一朗のシャツの裾をくしゃっと握る。
その指先がかすかに冷たい。
「……楓」
一朗はごくりと唾を飲んだ。
振りほどかなくちゃと思うのに、背中に感じる楓の体温が心地よくて、動けなかった。
「私、一朗のこと怒らせた……?」
楓の声が少し泣きそうになる。
「別に怒ってねえよ」
一朗は短く答えたが、声がうまく出せない。
自分でもどうしたいのか、わからなかった。
楓はそっと顔を上げ、一朗の背中に額をくっつける。
「……一朗は、やっぱりお姉ちゃんのこと、心配なんだね」
「当たり前だろ。あいつ、昔から無理するから」
「そっか……」
楓の声が小さくなる。
その小ささが、一朗の胸を妙に締めつけた。
「なあ、楓」
「……なに?」
「いい加減、離れろ」
ようやく絞り出したその言葉は、情けないほど弱かった