女王陛下のお婿さま
 アルベルティーナの私室があるのと同じ、東棟の一階の片隅にクラウスの部屋がある。他にも侍女の部屋が幾つか並んでいるのだが、そのうちでも一番小さな部屋が彼の部屋だった。

 もっと広い部屋にすればいいのにと、再三アルベルティーナは言ったのだが、居候だからここでいいと頑なに譲らなかったのだ。

 その扉の前に、アルベルティーナはハアハアと息を切らせて立っていた。衣装部屋から直接来たので、仮縫いのウェディングドレス姿のままだ。

 自分の荒い息と同じくらい心臓を高鳴らせ、彼女は扉を叩く。そして返事なんて待たずに勢いよく開けた。

「――クラウス!」

 部屋の荷物を纏めている最中だった。大きな声とその姿を見て、驚いてクラウスは作業の手を止めた。

「……ティナ?!」

 城を去ってからまだそんなに日にちは経っていないのに、彼の顔を見て懐かしいとアルベルティーナは感じた。それに、何だか泣きそうだ。

「ティナ……どうしてここへ……」

「クラウスこそ! どうして勝手に居なくなったの?!」

「それは……」

 アルベルティーナの問いかけに答えられずに、クラウスは視線を逸らした。彼女は部屋へ入り扉を閉める。

 走るのに邪魔だからと捲りあげていたドレスの裾から手を離す。まだ仮縫いのドレスだからだろう、裾に付いていたレースが解けてしまっていた。

 でもアルベルティーナはそんな事には構わずに、ギュっと両手を握りしめた。
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