女王陛下のお婿さま
 だが、いざ出航してみると、ゆらゆらと揺れる小舟に涼やかな風と水面。そんな景色に心はゆったりと穏やかに軽くなる。

「――今日は随分と機嫌がよさそうだな、女王陛下様」

 小舟を漕ぎながら発せられた嫌味にも取れるファビオの言葉に、アルベルティーナは少し眉を歪めた。

 しかしファビオの言う事ももっともだ。ここ数日、彼に付きまとわれている間中、イライラした不機嫌な顔をしていたのだから。

「久しぶりの外出だし、こんなに気持ちのいい所なんですもの。いくら貴方と一緒でも、不機嫌な顔なんてしていられないわ」

「なるほどね、あいつの言っていた事は正しかったわけだ」

「あいつ……?」

 ファビオは小舟を漕ぐ手を止めると、湖畔の方へ視線を向けた。そこには、クラウスやマイラたちが敷物を敷いたり昼食の準備をしている姿が。

「ここの事はクラウスに聞いたんだ。女王様が喜びそうな外出先はないかって」

「えっ、クラウスが……?」

 とたんにアルベルティーナの顔が曇る。

 クラウスが教えたのなら納得だ。この湖は、子供の頃よく彼と遊びに来ていた所だったから。楽しい思い出が沢山あって、アルベルティーナには大切な場所だった……

「幼馴染みのクラウスと、子供の頃によくここへ遊びに来たんだろ? 懐かしそうにクラウスが話してくれたよ。そんな場所なら、女王陛下も喜んでくれるんじゃないかって」

「そう……」

 アルベルティーナには大切な場所だったのに、クラウスにはそうでは無かった。易々とファビオに教えたという事は、そういう事なのだろう。


 胸が、ズキンと痛くなる……


 小舟は岸を離れ、湖の中央まできていた。ファビオはそこで櫂(かい)を引き上げた。
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