女王陛下のお婿さま
 でたらめでいい加減な男に見えるが、全てを乗り越え笑うファビオの芯は、太く強くやさしいようにアルベルティーナは感じていた。そして……

 私は女王としてこれから、どのくらいの事を諦めるんだろう……

 岸辺でマイラたちと働いているクラウスの姿を眺めると、アルベルティーナはまた胸が痛んだ。本当に諦めなければいけない時が、すぐそばまで迫ってきているように思えた。

「そんな諦めの達人の俺が、今だ諦めないでいるんだ。だから女王陛下は、さっさと俺を婿にした方がいいと思うぜ?」

 ファビオはアルベルティーナが心を揺らしているのを敏感に察知し、すかさずグイと押してくる。しかし彼女も負けずにそれを押し返した。

「それとこれとは話が別です」

「それは残念だ……自分で言うのもあれだが、なかなかのお買い得だと思ってるんだけど」

「諦めの達人だから?」

「そう、それに、まあまあ顔も良いらしい」

 また二人で笑った。自分に求婚してくる男性と、こんなに笑いながら話したのは初めてだった。

(押しの強さに警戒していたけれど……)

 話してみると、それほど変人でもなく。友人としてなら付き合っていけるかもしれない、そんなふうにアルベルティーナは感じていた。

 突然――空高く舞っていた鳶の鳴き声が小舟のアルベルティーナとファビオの耳に届いた。何気なくアルベルティーナが空を見上げると、今まで気持ち良さそうに旋回していた鳶は突然それを止め、山の向こうへ飛び去ってしまった。

 何か獲物でも見つけたのだろうか……アルベルティーナがそんな事を考えていると、同じように鳶を見ていたファビオが慌てたように言った。

「あれは……! まずい、突風が来る! 女王陛下、こっちへ!」

 ファビオはアルベルティーナに手を差し出した。しかし一瞬遅かった。
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