女王陛下のお婿さま
 休もうと思っていたアルベルティーナの私室に、次に訪れたのはファビオだった。さっきまでいたルイをやっと帰した所だというのに……少しうんざりしながら彼を部屋へ通した。

 夜はゆっくりしたいから、なるべく私室には来ないでくれと言ってあるのだが。どうも二人にはあまり通じていないようだ。

「何かご用ですか? ファビオ王子」

「いや、用って事でもないが……」

 アルベルティーナはさっきまで座っていた長椅子に腰掛けると、ファビオは当然のようにその向かい側のソファに座る。二人の目の前のローテーブルには、さっきルイから貰った蜂蜜酒とグラスが置いてある。ファビオはそれを忌々しそうに一瞥すると、アルベルティーナに小さな袋を差し出した。

「女王陛下様に贈り物だ」

 彼には不似合いな、可愛らしい絹とレースで出来た小袋。袋の口をギュッと縛ったリボンは高級なサテンだろう。

「ありがとうございます。でも何ですか、これは……」

 礼を言いながら開けてみると、中には角砂糖程の大きさのバラの形を模した菓子が入っていた。薄いピンクのそれは、どうやら砂糖菓子のようだ。

「あいつの渡した蜂蜜酒に合うと思ってな。あれ、毎晩飲んでいるんだろう?」

「ええ、お酒はあまり得意じゃないから、少しだけ。あれを飲むと何だか身体の力が抜けてぐっすり眠れるみたいなので」

「ふうん……じゃあ、尚更だ。うまいぜ、これも」

 ファビオは彼女の手から一つ取って、自分の口に放り込んだ。アルベルティーナも同じように一つ、口の中へ。

 砂糖菓子は口の中でほろりと崩れると、柔らかい甘さが広がった。しかしそれは甘過ぎず、すぐにさらさらと消えてゆく。後に残ったのは、ほんのりとした苦み。そのほろ苦さが濃厚な甘さの蜂蜜酒とよく合いそうだった。

「見た目より甘くなくて、美味しいですね」

「だろ? これが酒によく合う」

 砂糖菓子を美味しいと誉めると、ファビオは嬉しそうに笑った。その顔が子供みたいで、思わずアルベルティーナも微笑んでしまう。四つも年上なのに、時折見せるファビオの屈託の無い笑顔にキュンとさせられる。
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