女王陛下のお婿さま

「ところで、アルベルティーナ……」

「何でしょう?」

「もう『諦めの達人』になるのか『諦めない達人』になるのか、決めたのか?」

 ファビオが不意に投げかけた問いに、アルベルティーナは顔を伏せてしまった。

(まだ何処にも、クラウスの姿が見つからない……)

「いえ、まだ……もう一度、ちゃんと話してみたいんです。そうしなくては……」

 クラウスと、もう一度ちゃんと話したかった。彼がどう思っているのか聞きたい。それで自分の気持ちを確かめたかった。そうでないときっと、決められない……

「……そうか。心を決めたら何時でも言ってくれ。俺なら大歓迎だ」

 誰に対しての言葉だったのか、アルベルティーナは具体的な名前は出さなかった。だが、ファビオはそれが誰なのか分かっているようだった。

 ファビオはにこりと微笑むと、繋いでいた手を急に離した。曲は終盤に差し掛かっていたが、まだ続いている。終わりにするような時ではない。アルベルティーナが驚いて足を止めると、ファビオはそのまま彼女を抱きしめた。会場の人々がその光景を見て、驚きと感嘆のざわめきを起こす。

「な、何を……!」

 アルベルティーナも驚き、彼の腕の中でもがいたが、ファビオは離さなかった。そして彼女の耳元に口を寄せ、小さな声で囁く。

「――ルイ王子に気を付けろ。あいつは何か企んでる」

「え……?」

 ハッとしてファビオの顔を見た瞬間、演奏が終了した。彼はアルベルティーナを離すと一礼し、有無を言わせずそのまま玉座へ彼女をエスコートして戻してしまった。
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