女王陛下のお婿さま
 自分を呼ぶルイの声が、目の前にいるのにまるで隣の部屋から呼んでいるように聞こえた。身体の力がガクンと抜ける。もう立っていられなくて、ルイの方へ倒れ込んでしまった。

「アルベルティーナ様!」

 抱き留めてくれたルイの大きな声。会場の悲鳴もそれに混ざって聞こえる。いつの間にか音楽は止まっていた。

(身体が動かない……)

 視界もおぼろげだ。かろうじて周りの声だけがアルベルティーナには聞こえていた。

『――誰か! 侍医(じい)を呼べ!』

『――何処か休める部屋はないか?!』

『――それなら此方に!』

『――アルベルティーナは大丈夫なのか?!』

『――僕が運ぶ! 扉を開けろ!』

 アルベルティーナは身体がふわりと浮き上がるのを感じた。ぼんやりとした視界には、青い影が。それで彼女は、ルイに抱き上げられたのだと分かった、そのまま移動する振動が伝わってくる。再び浮遊感を感じると、何か柔らかいものの上に横たわらせられた。

 ルイはアルベルティーナを抱き上げると、隣の部屋へ移動した。そこは招待客が舞踏会の喧騒を少し離れ、休憩する為に用意された部屋だった。ベッドは無いが、くつろげるように長椅子が幾つか並べてある。ルイはそれにアルベルティーナを寝かせたのだ。

 ルイはぞろぞろと付いてきた侍女たちやクリストフ、ファビオを一瞥すると言った。

「……侍医が来たら教えて下さい。それまでは、この部屋には誰も入らないで。うるさくされると女王陛下もますますご気分が悪くなるでしょうから」

 彼に言われ、マイラたち侍女やクリストフにエメリナは部屋を出たが……

「――何をしているんですか、ファビオ王子。貴方も早く出て下さい」

「俺は残らせてもらう。アルベルティーナが心配だ」

 ファビオは二人の側に立ったまま、そう言って動こうとはしなかった。ルイはそんな彼に、冷たい言葉を投げつける。
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