ハイエナ令嬢:幼なじみの年下魔王

4:ヤギ魔王とレトリバー少年

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 森の荘園の、丸木小屋コテージ。

「やあ、お使いご苦労。君はクリュエルのところの新顔だったね」

「あい。お使いに来ました」

 アロハシャツの着流しに天然の角を生やした「ヤギ魔王」ことヤギョ・パーンは、鹿エルフのメイドの鹿島(カシマ)に目配せする。すぐ横の台からレモンとハーブとソーダ水を取り上げ、グラスに注いでお盆に乗せる。

「どうぞ」

「どうも、ありがとうございます」

「掛けたまえ」

 レトリバーのように耳の垂れた少年はお辞儀をして腰掛けた。グリーンのローブを身にまとっていて、背中に担いだ大剣は少し迷ってから、ソファの脇に立て掛けた。

「犬鳴(いなき)レトリバリクスと申します。ご覧のとおりに犬エルフの狼男です。義兄のトラからも、よろしくと申しつかって参りました」

「ヤギョ・パーンです。この角は山羊エルフの証で、オヤジはあっちの困ったクルスニコ魔王ですが、このカッコイイ角とはオヤジは関係ないです。トラ君やクリュエルのところにはお世話になっております」

 ヤギョ、わざわざお使いに来てくれた犬エルフの少年の労をねぎらって、優しく丁重。やはり身内の若手・新人と思っているのか。
 なんとなく山羊っぽい脳天気な雰囲気だけれども、でも血筋から「魔族子爵の魔王」ということにもなっているらしい(魔族のオヤジの取り扱いではいささか苦労しているらしい)。しかもリベリオ屯田兵村(反魔族レジスタンス)のリーダーの原人騎士クリュエル(本人は人間の魔術戦士だが妻が森林エルフ)とは、エルフ・ドワーフ酋長会議や宴会での面識もあって友人。魔族の晩餐会や付き合いはすっぽかし(価値観が合わないらしい)、むしろ母方つながりでエルフやドワーフと仲が良い。

「トラももうじきこちらに来ますが、様子見で僕が先にご挨拶に来ました。トラが直接にこちらに来ると目立つかもですし、どこか連絡が付きやすい宿屋や滞在場所はありませんか?」

「都市に、付き合いのあるグループの仕切っている地区がある。エルフやドワーフの組合で、私はハイエナ氏族の子らとも親しい。手頃そうなところをいくつか紹介するし、紹介状も書こう」

 魔術罠師トラは、リベリオ屯田兵村でも屈指の実力者で、それだけに魔族や手下のギャングたちからは警戒されてもいる。いきなり来訪すれば騒がれて会談すらできなかったり、先制攻撃されたり奇襲のチャンスを失うかもしれない。
 だから、義弟のレト(犬鳴レトリバリクス)がこうして先にコッソリとお使いに来て、簡単な連絡をとろうというわけ。
 目的は、ボーナの都市と地域での勢力争い・支配圏闘争で、他の魔族のギャンググループを牽制や駆逐したり、背後にいる魔王たちを討伐することだ。そのためにヤギョたちの「ボーナ・エルフ荘園」のグループはリベリオ屯田兵村のクリュエルやサキとは連絡を取り合っていた(魔族ハーフのサキュバス姫騎士サキが栽培しているピンクポテトは、ヤギョがサキのグループを匿って逃がした際に種芋を提供したものだったりする)。

「あらあ? お客様?」

 ドアを開けて、馬エルフのメイドのエンプーサが入ってくる。手のお盆にスパゲッティを乗せているが、それは一人分しかない。

「エンプーサちゃん、そうなんだよ。リベリオ村の新人君だって」

 鹿島がかまびすしく説明する。
 馬と鹿で「馬鹿」と言ってはいけない。

「あらあ! そうだったのね! もう一人分、茹でようかしら? 私たちの分が台所にあるから、そっちをお出しします? バジルソースですけど」

「そうしてくれ。面倒だったら、夜食用のトウモロコシパンを君らが足りない分に食べていいから」

「あらあ、そうしますわ。ココアと食べると美味しいんですよねえ。お客様にも食後にでも持ってきますね」

「うん。私にはコーヒーを」

「あらあら、はい」

 馬エルフのメイドはとぼけた眠そうな顔で、てくてくと部屋を出て行く。鹿島が「バカ」と小さく呟いたのは、スカートがベルトに引っかかってお尻が丸見えになっていたからだ。
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