ハイエナ令嬢:幼なじみの年下魔王
3
 ミーシャとルチアが当番で店番している雑貨店に、あのレトリバー少年がやって来たのは、翌日の昼下がりのことだった。
 保存用の乾パンと飲料水、塩タブレット。
 味方側の区域だと聞いていたので、様子見も兼ねて買い物に来たらしい。市場だと生鮮食品や衣料品などが多く、保存食は通りの店舗の方が良いと教えられたのだそうだ。

「こちらは、ハイエナ氏族のグループのお店なんだそうですね。もし関係するお店とか地図のチラシみたいなのがあれば、いただけます?」

「あ、はい。そういうのはないですけれど、大雑把になら説明できますよ」

 ミーシャが物珍しげに答えた。

「お客さん、このあたりの人じゃないね?」

 しかし、他の治安が悪い街区の者だとも思えないから、旅行者か外部の者だと当たりをつける。この黒髪でドロップイヤーの少年は、雰囲気が温和で恭順そうで、荒んで粗暴なこの町のギャングの手下には見えない。

「はい。隣のエニチェリ商会に、商用の手伝いですとか見習いとか、あと研修みたいな」

「ふーん、そうなんだ。このあたりはアハの区画って別名があって、アマゾネス・ハイエナのグループが色々やっていて、エニチェリ商会のドワーフさんたちとは仲良くしてる」

「そんなふうにうかがってます。こっちの方だったらわりかし安全だし、サバンナ食堂っていう美味しい定食屋があるから行ってきてみろと聞いて」

「それだったら、この道を左に行けば看板は出てる。ここと同じグループで、すぐ近くに宿屋と洗濯屋があって、洗濯屋では私もよくいる。食堂の小母さんも、聞けば色々教えてくれると思う」

「そうだったんですね。ありがとうございます」

 犬鳴(いなき)レトリバリクス(レト)は、ペコッと頭を下げた(垂れ耳を揺らして)。だがその目線はチラチラとルチアに投げられていて、ルチアもそれに気づいたようだった。

「どうしたんです? 可愛い女の子が珍しい?」

「いえ、雰囲気が。知り合いを思い出しただけで」

「それってナンパってやつと違う?」

 ルチアは物怖じしない。
 するとレトは少し迷ってから、意表を突く言葉を小声で口にした。

「魔族と人間の混血ですよね。臭いでわかります。たぶん、人間の肉はほとんど食べてない」

「え?」

「犬エルフですから、嗅覚で。知り合いでそういう人がいて、もしかしたらって」

「体臭? 臭い? 発想が変態っぽくない?」

「いえ、他意はなく。その知り合いも、悪い人じゃないですが、けっこう曲者で」

 レトが言っているのは、リベリオ屯田兵村のサキュバス姫騎士のサキのことだ。

「ひょっとして、エルフのご親戚とかは?」

 もう一つは、ヤギョ。直感で「あれ?」と思ったものの、性別が男女で違うのでそちらの違いでイメージが紛れ、はっきり断定できない。顔立ちなどからも、親戚関係の可能性はある。
 ルチアは空とぼけた。十三歳でも賢く慎重。

「さあ? 片親がエルフだとか魔族の血を引いているって聞いてはいるけど」

「そうだったんですね。それでは」

 立ち去ったレトに、ルチアは異父姉ミーシャにヒソッと呟いた。

「また来るかな? しばらくここでアルバイトしていい?」

「私よりちょっと年下で、アレクセイと同じくらいだね。キランがアレクと仲良しだから、お姉ちゃんも浮気しちゃおっか?」

 レトは顔立ちは普通だったし雰囲気が良さげ。
 あとでアレクセイが知って、「うちの妹に手を出すとは良い度胸だ。その犬畜生は〆てやる」と宣って、事実として半分くらいそうなった。しかしレトは存外に強く(魔術罠師トラの義弟で訓練している)、その出会いが「終生のライバル関係」の始まりでしかなかった。それをミーシャとキランは「年齢の近い男の子同士の友達が出来て良かった」と喜んでいて(子供時代からこれまでキランが遊び相手をしていたが、それも年齢的に限界があった)、ルチアは淡い恋心(?)で兄を余計にムキにさせた。
< 14 / 25 >

この作品をシェア

pagetop