ハイエナ令嬢:幼なじみの年下魔王
3
 その監獄要塞の入り口、メインゲート。
 ハイエナの金属像が鎮座していて、「ヘッヘ、餌食諸君、地獄へようこそ」というフレンドリーな笑顔を浮かべている。レリーフには「野獣たちに引き裂かれる罪人」の絵柄が彫り込まれていて「逃げたらこうなる」(周囲には監視兵と訓練された猛犬たちが見張っているから!)ということ、この監獄内での「己自身の必然的運命」を暗示している。
 けれども、この暗喩には二面性がある。監獄要塞の職員たちや囚人たち自身が、自らを「荒野の野獣」になぞらえているから!

「おっちゃんに会うの久しぶりだな」

 キランに連れられてきたアレクセイは、懐かしげな表情。彼からすれば、キランの伯父で母(サリー)を匿ってくれた獄長のロイ・ロドリゲスは恐ろしい相手というよりは、身内の小父さんでしかない。
 キランは慰問イベントでもしばしば出入りしているが、本日の訪問は「お仕事」のためだ。彼女は「害虫駆除」の技能魔法(クラフト)が使えるために、それも業務と収入源になっている。

「私は今日一日はここで仕事だから、アレクセイは伯父貴と話したり、イベントを見るといいよ」

 やはり伯父貴ロドリゲスに改めて挨拶する機会でもあるようだ。

「何かイベントでもあるのか?」

「リベリオ屯田兵村の人が来て、格闘試合してるみたい。同い年くらいの子もいるらしいから、アレクも混ぜて貰ったら?」

「おー、うん!」

 どうやら、キランとしては自分のダーリンに見せ場を作ったり、ここの関係者と馴染みの囚人たちにもお披露目したいらしかった。


4
 受付にはゴブリンの娘。
 より正確には、女ゴブリンと人間の混血ハーフで、父親はここの職員や囚人兵士たちの誰かであるらしい。
 ゴブリンは深淵エルフ(魔族寄りのアビスエルフ)の一派だが、氏族の遺伝性質は男がメインで継承される。ゴブリンが男ばかりで、人間の女性を攫うイメージ(事実よくあるが)が強いのはそのためだ。女ゴブリンは生まれる比率が少ない上に、ゴブリンとしての目立った性質は子供に遺伝しにくいらしい(知能も高いために、人間やエルフと混ざってしまうことが多い)。同じアビスエルフでも鮮魚人などは男女双方で形質遺伝するのだが、人数が少ないので、しばしば人間やエルフと混血しながらグループを維持しているらしい。

「キランちゃん!」

 ゴブリン娘は緑色の微笑みを咲かせる。キランとは友人なのだ。

「ミドリちゃん、元気してた?」

「元気してた~!」

 そしてミドリはアレクセイを見て、「ミーシャさんの弟君だね!」と思い出したようだった。
 会話が始まろうとしたとき、新たな人影。
 あの耳の垂れたレトリバー少年だ。

「あれ? キランさん。今日の参加者ってキランさんだったんですか?」

「どーしよっかな? メインはこっちの、マイ・ダーリン。アレク、話してた彼だよ」

 かくして、魔族の少年貴公子とレトリバーなエルフ少年(犬鳴レトリバリクス)は宿命的な出会いを果たしたのであった。

「お前が、妹をたぶらかしたのか?」

「あい?」

「とぼけるな、うちのルチアに・・・」

「あ、ルチアちゃんの兄弟?」

 あくまで平和そうなレトに、アレクはにわかに怒気と挑戦の気配を向ける。

「こいつ、今ここでとっちめてやる!」

 飛びかかろうとしたアレクに、レトは片手に「透明な子犬のようなオーラ」(こいにゅー)を発生させ、投げつけた。それは宙を飛んでアレクの顔に張りついて、とてつもない和みと平和のオーラを発散する。
 かくして沈静化させると、レトは「先にイベント会場に戻ってます」と引き下がっていった。
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