ハイエナ令嬢:幼なじみの年下魔王

6.5:魔族姉妹の因縁闘争

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 そのころ、ヤギョたちのエルフ荘園の森では。

「おーっほっほほ! 待ちやがれ、この牝犬のクソ娘がっ! 今日という今日こそは!」

 貴婦人スタイルの、クルスニコ家の長女・伯爵夫人(女伯爵)サビーナは出刃包丁を持って、異母妹ルチアを追跡中。平素にとり澄ましていればまだ高慢な美人なのだが、今ははばかりなく夜叉の本性を露わにしている。鬼畜のような狂った山姥の笑顔で、目を血走らせている(男でもビビって逃げ出すぞ)。
 昼なお暗い、鬱蒼とした森の中で、懸命に逃げ回るルチア。死の追いかけっこは続く。
 そのうちヤギョが止めるだろうが、サバイバル訓練にもなるので気づいていてもわざとほったらかしするので、しばらくは自力で逃げ回るしかない。だがサビーナの殺意は本気である。「魔族」のプライドが高い彼女からすれば、敬愛する父侯爵のレオが「下等な人間ふぜい」の女を愛妾にしていただけでも不愉快なのに、子供まで産ませて庶子に認知したことが許せない。一族・一家の恥だから、ここで今日こそ始末してやる!

(あの鬼ババア、いつか殺してやる!)

 怯えて涙目で逃げ回りながら、ルチアは内心で毒づく。アレクセイとヤギョのような兄弟としての関係ではなく、ルチアにとってサビーナは本当に天敵だと言って良いだろう。

(でも、ザマーミロだわ!)

 この異母姉サビーナはルチアへの敵意むき出しの態度とは裏腹に、いつだったか、兄のアレクセイには裸で交情を迫ったことがある(ルチアが背後からナイフで刺して阻止した。いつぞや便器の水で溺死させられかかった恨みもある!)。
 サビーナは「あなた(アレクセイ)を助けてあげられるのは妾だけ」だと。魔族至上主義のサビーナからすれば、混血雑種でも貴族の息子であるアレクセイは上級魔族の女と結ばれることでこそ救われるというのが彼女の理屈らしい(魔族では近親結婚・相姦が必ずしも禁忌でなかったし、母親が違えばなおさらだった)。サビーナからすれば、アレクセイは同じ魔族侯爵の一族の親族の少年ではあったし、跡継ぎの子供のタネの相手としてはアリらしかった。
 そのくせルチアにだけは激しい嫌悪感を抱いているのは、母親サリー(人間の魔女)への憎しみが、そのまま娘のルチアに対象を変えて引き継がれたのだろう。
 ルチアは振り返って叫んだ。

「この発情ババア! 私のことを「お姉様」と呼んで跪け! そしたら「第二夫人」にしてやってって、お兄様に頼んであげてもいいわよ!」

「なんですって! なんですって! このガキ、生き肝を喰らってやるわ! 手足をもいで、豚オーク(鬼)どもの慰みに売り飛ばすわよ!」

「あんたが豚とファックしてろよ、鬼ババア。ああ失礼だったわ、豚さんに! あんたみたいな嫁ぎ遅れた腐れアマはそこらのゴブリンに銅貨一枚で春でも売ってりゃいいのよ!」

「ムキィィー! この人間の小娘! うああああ! こっ、殺したげる! ぶっ殺しちゃげるわああ!」

 サビーナは赤さを通り越してどす黒いほどの鬼の形相になった(逆鱗に触れた?)。アレクセイの第一夫人はキラン・レイレイで確定しており、ハイエナ娘より序列が下の第二夫人扱いされるのはプライドの高いサビーナには不興だろう。
 大慌てで再び逃げるルチア。追うサビーナ。
 女魔族たちの家庭事情は過酷であった。
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