ハイエナ令嬢:幼なじみの年下魔王

2:ハイエナ令嬢のお仕事・荒事・秘め事

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 やっぱり、叔母の日替わり焼きサンドは旨い。
 食事のあとには、キランにはやっぱり日課の「お仕事」がある。ミーシャは洗濯が終わって店番に出る。魔族兄妹も二手に分かれることになる。

「社会勉強だもんね。ルチアも、店番するなら「お着替え」しなくっちゃ」

「このままじゃダメ?」

「お仕事着の、ユニフォームがあるから。キランが昔に着てたのがあるのよね」

 身をやつしてはいても、どことなく貴族風の格好のままで店に出すのは無理がある。それにミーシャはこういう機会のために、わざわざ準備もしているのだから抜かりはない。
 ルチアはにっこりした。こうして見ていると、普通の美女姉妹にしか見えない。

「エプロンドレス? ミーシャやキランみたいなやつ?」

「そう」

「やったー」

 普段と違うファッションをしてみるのには、ルチアも乗り気で、前にも「着てみたい」と言っていたことがある。それでキランの予備をおいてあったのだ。

「キランは外回りの配達でしょ? アレク、手伝ってあげたら? 運ぶものがあるから、男の子の見せ場なんだし」

 ミーシャはそう言って、キランにも素早くウインクする。この親友のことは「嫁候補」として乗り気であるらしい。だから二人きりで話やデートするチャンスと時間を作る配慮なのか。

「あんたも、着替えなくちゃ」

「僕はそんなメイドみたいな格好なんかしない」

 アレクセイはムスッとして、やや警戒の表情を浮かべる。過去の幼き日に、姉とこの友人からふざけてエプロンドレスを着せて「かわいー」「似合う~」などとはしゃいでオモチャにされたのは屈辱の記憶なのだろう(そのときにはルチアはまだサイズが合わなかった)。同じ美人な母親の息子だから、アレクだって整って綺麗な顔をしている。

「大丈夫。あたしの私服があるから。ズボンとか洗ってあるのが」

「女ものはちょっと」

「ユニセックスのだよ。わたしがどっかのお嬢様みたいに、「シャツもズボンも女性専用のが良い」なんてこだわる口か?」

 なお警戒して抵抗する素振りのアレクセイに、キランは安心させるように言った。
 だが彼女自身の物言いとは裏腹に、むしろキランは立場や血筋からすれば「令嬢」と呼んで差し支えないのは皮肉なことではある。スポーティで活動的な性格の武闘派という点を除けば、地域一帯を取り仕切って宿屋・食堂を運営し、実質的に酒やタバコと食塩を専売している「地域ボスの小財閥」の、先代ボスの跡継ぎ娘なのだから。まだ年齢が若いので正式な当主襲名はしていないが、有力者の伯父(監獄の獄長閣下)や幹部(食堂経営など)の叔母からも「当主代行・継承予定者」と支持されている。言ってみれば、キラン・レイレイは修行中の若き女社長みたいな立ち位置だった。

「ああ、そうだな。昔からオトコ女みたいなもんだからな、キランって」

「だったらついでにパンツも貸してあげようか?」

「はあ?」

「きっとあんたが履いたら「はみ出す」だろねえ。興奮して仕事どころじゃなけなっちゃう?」

「はあっ?」

 不遜な軽口を叩くアレクセイに、キランは肉食獣の不敵な笑顔で言い返した。
 彼が姉のミーシャに「キランの服を借りたら、あいつのにおいがして~」などとこぼしていたことは、もちろんキラン本人も妹のルチアも裏で聞いている。アレクセイがキランを異性として恋愛対象で意識していることも。
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