ハイエナ令嬢:幼なじみの年下魔王
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本日と恒例の、キランのお仕事。
外回りの配送とはつまり、酒や食塩を、決められた取引先の食堂や職人ギルドまでまとめてお届けに上がることだ。
部下や職員にやらせても良いのだけれど、キランはあまり手を抜きたがらない。重要な顧客・仲間に直接に顔を出すことで営業したり、情報共有する目的もある。細かい荷物や手紙の配送などはアハ団のメンバー職員がやることが多いけれども、それらの仕事で町をうろついていることは同時に「警備パトロール」でもある(それによって余所のギャングや犯罪者たちを「縄張り」から締め出している)。
ガラガラと、車輪の付いたキャリアーで町中を行き来して、酒瓶をいくつも入れた木箱と、塩や調味料を運んでいく。都市内部では基本的には馬に乗ることや荷役動物は、特に許された公用以外では制限されている(事故防止や衛生上の問題)。
「今日は二人がかりだから、効率良くっていいわー。早く終わったら、デートでもする?」
そんな言葉を口にしながら、キランは「既にこれがデートみたいなものか」と思う。最初からそういう含みではあったし、アレクセイもわかっているはずだった。
少年が口を開きかけて言葉に迷うので、彼としても態度や話題を決めかねているのか。困ったヤツ思いつつ、キランは水を向けてやる。
「最近どうよ? ヤギョの旦那から修行してもらってるんだろ?」
「あ、あー。あのヤギ男、どんなにやっても勝てやしない。「草食だから弱いというのは固定観念だ」とか「無駄に残酷になったり、人肉食えば強くなれるなんてのは甘えだ」とか、偉そうに」
ヤギョさん、実は格闘戦では屈指の強さ。エルフの魔法まで使えるので無敵。魔族としての表向きの位階は子爵(準伯爵)だけれど、伯爵どころか侯爵級の最上級魔族たちからさえ「手を出すのは危険」とされているらしい。そのおかげで、付き合いのあるキランやこの辺りの地域が守られている面もある(他のギャングたちが度を超えた横暴や侵略したら、ヤギョやドワーフ伯爵のバヤジットと全面戦争になるから)。
いずれにせよ、まだ少年のアレクセイが戦って勝てる相手ではなく、挑戦したり訓練で思い知らされているのだろう。ヤギョは強い上に身内で、あれで性格も優しい方だから、アレクセイにとっては修行と訓練の相手や先生として最適なはずだった(どれだけコテンパンにされても、殺されてしまう怖れはほとんどないのだから)。
「おまけに代用食のピンクポテトのサラダとか紫ハーブのお茶を毎食食わせてくるし。あんなもん、女や子供とか魔族でも貧民の食い物だろ?
おまけに「勉強しろ、バカではダメだ」とか言って、古典語や歴史の古い本とか無理矢理読ませたり、「農業実習するぞ」とか言って畑仕事まで一緒にやらせるし、灌漑のことや植物のことやら飽きもせずに延々とペチャクチャ喋ってやがる」
キランはくつくつ笑った。
異母兄から良い指導を受けられているようで何よりだ。父親のレオ・クルスニコ侯爵は魔族としては付き合いやすく話せる相手ではあったが(例外的な奇人変人?)、それでも魔族としてのプライドやアイデンティティが強くて、危険で恐ろしい人物だから。
キランやミーシャには、アレクセイには「立派な魔王」になって欲しいけれども、邪悪な魔族の権利者みたいにはなって欲しくないから複雑だ。
本日と恒例の、キランのお仕事。
外回りの配送とはつまり、酒や食塩を、決められた取引先の食堂や職人ギルドまでまとめてお届けに上がることだ。
部下や職員にやらせても良いのだけれど、キランはあまり手を抜きたがらない。重要な顧客・仲間に直接に顔を出すことで営業したり、情報共有する目的もある。細かい荷物や手紙の配送などはアハ団のメンバー職員がやることが多いけれども、それらの仕事で町をうろついていることは同時に「警備パトロール」でもある(それによって余所のギャングや犯罪者たちを「縄張り」から締め出している)。
ガラガラと、車輪の付いたキャリアーで町中を行き来して、酒瓶をいくつも入れた木箱と、塩や調味料を運んでいく。都市内部では基本的には馬に乗ることや荷役動物は、特に許された公用以外では制限されている(事故防止や衛生上の問題)。
「今日は二人がかりだから、効率良くっていいわー。早く終わったら、デートでもする?」
そんな言葉を口にしながら、キランは「既にこれがデートみたいなものか」と思う。最初からそういう含みではあったし、アレクセイもわかっているはずだった。
少年が口を開きかけて言葉に迷うので、彼としても態度や話題を決めかねているのか。困ったヤツ思いつつ、キランは水を向けてやる。
「最近どうよ? ヤギョの旦那から修行してもらってるんだろ?」
「あ、あー。あのヤギ男、どんなにやっても勝てやしない。「草食だから弱いというのは固定観念だ」とか「無駄に残酷になったり、人肉食えば強くなれるなんてのは甘えだ」とか、偉そうに」
ヤギョさん、実は格闘戦では屈指の強さ。エルフの魔法まで使えるので無敵。魔族としての表向きの位階は子爵(準伯爵)だけれど、伯爵どころか侯爵級の最上級魔族たちからさえ「手を出すのは危険」とされているらしい。そのおかげで、付き合いのあるキランやこの辺りの地域が守られている面もある(他のギャングたちが度を超えた横暴や侵略したら、ヤギョやドワーフ伯爵のバヤジットと全面戦争になるから)。
いずれにせよ、まだ少年のアレクセイが戦って勝てる相手ではなく、挑戦したり訓練で思い知らされているのだろう。ヤギョは強い上に身内で、あれで性格も優しい方だから、アレクセイにとっては修行と訓練の相手や先生として最適なはずだった(どれだけコテンパンにされても、殺されてしまう怖れはほとんどないのだから)。
「おまけに代用食のピンクポテトのサラダとか紫ハーブのお茶を毎食食わせてくるし。あんなもん、女や子供とか魔族でも貧民の食い物だろ?
おまけに「勉強しろ、バカではダメだ」とか言って、古典語や歴史の古い本とか無理矢理読ませたり、「農業実習するぞ」とか言って畑仕事まで一緒にやらせるし、灌漑のことや植物のことやら飽きもせずに延々とペチャクチャ喋ってやがる」
キランはくつくつ笑った。
異母兄から良い指導を受けられているようで何よりだ。父親のレオ・クルスニコ侯爵は魔族としては付き合いやすく話せる相手ではあったが(例外的な奇人変人?)、それでも魔族としてのプライドやアイデンティティが強くて、危険で恐ろしい人物だから。
キランやミーシャには、アレクセイには「立派な魔王」になって欲しいけれども、邪悪な魔族の権利者みたいにはなって欲しくないから複雑だ。