ハイエナ令嬢:幼なじみの年下魔王
3
 三度目の出陣でようやく片付いた。
 なにしろ一度で運ぶ荷物の量は二人がかりなので倍近くだったし、あっちこっちで「この子はミーシャの弟君です、社会勉強です」などとご挨拶や紹介もできたし、上出来で言うことなし。
 皆、彼が魔族のレオ・クルスニコ侯爵の息子であることは知っているが、母や姉は人間で古くからの馴染みでもあるし、クルスニコ一家そのものも特にヤギョ・パーンなどはエルフの身内でもあって嫌われていない。彼らからして一番に困るのは、アレクが邪悪な魔族として敵対したり害悪になることだろう(味方を失った上で被害を受けることになるから、二重の損失や打撃になる)。

「あいつら、僕が魔族だって知ってるんだよな?」

「でも、お母さんはうちらの町の仲間だったし、ミーシャもそうだから」

「ふうん? そんなもんか?」

 プライドや自覚と意識の高い「魔族の貴公子」であるアレクセイにとっては、少し調子が狂うらしい。基本的には魔族は「人食い鬼」で人間に敵対や虐政する種族なのだから。「仲間の家の坊主」みたいな態度には釈然としないらしい(彼らも生活環境などから図太くて腹が据わっているから)。

「そんなもんよ。ヤギョさんとかも、たまに麦わら帽子かぶって市場で果物の叩き売りしてるし」

「あいつはおかしいんだよ。一緒にすんなよ!」

 アレクセイは苦虫を噛んだ顔になる。しかしヤギョ・パーンが「おかしい」のは、彼を魔族の小(または中級の)魔王として考えた場合だけで、ただ単に「混血の獣エルフ」として見たらおかしくも何ともないのだが。

「あんにょ! あんにょ! ヤラシイだけじゃ、ダメですかあ?」

 道端でセクシードレスの鮮魚姫(深淵エルフの一種)が媚びた笑顔でご愛嬌と色気を振りまいて、客引きしているのに出くわす。アレクセイが目線で興味を示し(男の子って!)、目敏い鮮魚姫は流し目して手招こうとする。だがすぐ隣のキランの存在と殺気に気づいて、生笑いしてやり過ごす。
 あいつら、見た目は悪くないから、あんなふうでも男を釣ったり騙すのは得意なのだ。だが本性と実態を知っている(しかも同性の女である)のキランからすれば、「あざといんだよ!」と脳天チョップでもしてやりたくなってくる。

「ああいうのは、ぼったくりとか恥と汚れとか、そんなのだから。あんなのより、姉貴のミーシャの方がよっぽど綺麗だろ」

 ついミーシャのことを引き合いに出してしまうが、アレクセイは血縁者とは思っていても「姉」と認めるのは拒否しているのが難しい。しかも異性として意識しながら、血縁上は姉であるために、そのことでも苦悩しているらしい(ミーシャは「困った弟」として愛しているだけ)。
 あんまり気軽に比べるのは無理があったかもしれず、言い方が悪かったかと思ったときに、サクッとカウンターされた。

「あの踊り子より、キランの方がいいけど」

 無言で十歩ほど歩く。キランは胸が高鳴って、喉を鳴らして落ち着こうとする。

「は、早く片付いたし、だからお駄賃くらいは出るけど。ちょいサービスくらいしてあげよっか?」

「どうせすぐに晩御飯だし、お茶とかだったら、どうせあの食堂とかアハの施設だろ?」

 つれなくそっけないのは、別にキランを嫌っているというよりも、この少年の性分だったり率直にそう思っていりのだろう。本格デートでお茶や食事でもごちそうするとでも思ったのか。

「温泉は?」

「?」

「汗かいてるし、うちの宿屋の裏に、温泉引いたお風呂もあるけど。昔みたいにご一緒する?」

 キランは様子見するみたいに、アレクセイの顔を覗き込む。どんな反応するだろうか。

「今晩泊まってくんだったら、私の部屋に来ていいよ。ルチアちゃんはミーシャの部屋だろうから、三人はさすがに狭いだろうし」

「いいのかよ?」

「どうして?」

 わずかに狼狽えるアレクに、キランは素知らぬふうにしらばっくれる。言わんとする含みがわからないほど子供でないはずだったから。
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