やさしく、恋が戻ってくる
その夜。
部屋の灯りを消して、布団にくるまりながら、今日子は目を閉じた。

でも、なかなか眠れなかった。

頭の中に浮かぶのは、やっぱりこうちゃんの顔。

「これ、ふつうにお店の味。すげーな」
「次はオムライスかな」

思い出すたび、胸の奥がじんわりあたたかくなる。唐揚げをほおばる顔も、からかうみたいに笑う目元も、
全部が嬉しくて、ちょっと恥ずかしくて、だけど……すごく幸せだった。

好きな人が、自分の作ったものを「おいしい」って言ってくれるなんて。
それだけで、世界が輝いて見えるんだなって、今日子は初めて知った。

「オムライス、練習しなきゃ……」
小さな声でつぶやいて、ふふっと笑ってしまう。

明日も、がんばろう。
もっと料理も上手になりたいし、もっと……好きになってもらいたい。

好きな人のために頑張れる自分が、ちょっとだけ誇らしく思えた夜。

今日子はそんな気持ちを胸に、ゆっくりとまぶたを閉じた。
布団の中で微笑みながら、少しだけ大人になった気がした。




浩司はベッドに横になって、ふと、今日の出来事を思い返す。

玄関先で会った今日子の照れくさそうな笑顔。
「唐揚げ、作ったの」って、少し自信なさげに差し出した手。
あのタッパーの中に込められた、まっすぐな気持ち。

「……かわいかったな」

思わずぽつりと声が漏れる。

一生懸命で、素直で、ちょっと背伸びしたがる今日子。
高校生らしくて、でも時々、大人の女性みたいな表情もする。
そのあどけなさと、ふと見せる芯の強さのバランスが、たまらなく愛しい。

オムライス。
そんなふうに頑張ろうとしてくれてることが、嬉しかった。

「ちゃんと守りたいな」
そんな気持ちが、心のどこかでゆっくりと根を張っていく。

年齢も、立場も、自分の方がずっと上だ。
でも、今日子の真っ直ぐな思いに触れるたび、
自分の中の「男」としての何かが、確かに動くのを感じる。

好きだ。
守りたい。
大切にしたい、そう、心の奥で静かに思う。

まぶたを閉じると、今日子の笑顔が浮かんだ。

ほのかに香る、あの唐揚げの匂いまで思い出せそうで。
浩司は、微笑みながらゆっくりと眠りについた。

彼女の未来に、自分がちゃんと手を差し伸べていけるように。
少しだけ強く、優しくなりたいと思いながら。
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