やさしく、恋が戻ってくる
出張先のホテル。
白い天井を見上げながら、浩司はスマホを手に取る。
今日子の名前を開いては閉じ、何度もメッセージを書いては消す。
(元気にしてるか……)
聞きたいだけなのに、それすら今の自分には許されていないような気がしていた。
慣れない土地で、目の前の仕事に食らいつく日々。
朝も夜も先輩の予定に合わせて動き、終わる頃にはもう連絡を取る気力すら残っていない。
けれど、ふとした瞬間、今日子の笑顔が頭をよぎる。
(今、何をしてるんだろう)
(今、誰かと会ってるんだろうか)
(俺がいない間に、何か変わったりしてないか……)
そんな自分の不安が、「信じてるつもり」の言い訳を上回りそうになる。
自分のいない時間の中で、彼女がどんな景色を見ているのか。
知りたい。でも、こわい。
静まり返った部屋の中で、浩司はまたため息をひとつ、落とした。
その夜。
今日子はスマホを開いた。
浩司とのトークルーム。何日も既読がついていない画面。
「おかえりなさい、って……いつになったら言えるのかな」
ぽつりとつぶやいて、トークを閉じる。
代わりに、藤木くんのメッセージを開いた。
《今日子ちゃん、今日ありがとう。無理しないでね。》
たったそれだけなのに、胸があたたかくなる。返信を打つ指が、迷わず動いていた。
私は、いまを生きてる。
そんな感覚が、今日子を静かに前に押し出していた。
スマホの画面を開いて、ずっと迷っていたトークルームをもう一度開く。
浩司の名前。
最後に既読がついたのは、何日も前だった。
部屋の灯りを落として、画面の明かりだけが今日子の顔を照らしている。
心臓が、静かに、でも確かに打っていた。
このメッセージを送ったら、もう元には戻れない。
でも、ずっと伝えられなかったままでは、前に進めない。
今の自分を、自分で認めてあげられないと思った。
(わたし、ちゃんと終わらせたい)
深呼吸をひとつして、指を動かす。
何度も消して、書き直して、そしてようやく打ち終えたメッセージ。
《こうちゃんへ》
久しぶりだね。
メッセージ、読んでくれてるかはわからないけど、今の気持ちをちゃんと伝えたくて送ります。
こうちゃんと離れて過ごす時間が長くなる中で、
私は自分でも気づかないうちに、たくさん不安になって、たくさん我慢してたんだと思う。
ずっと「待つのが愛」だと思ってた。
でも、会えなくても、話せなくても、心が繋がってるって信じたくて……
それでも、少しずつ、見えなくなっていった。
今、私のそばには、ちゃんと私を見てくれる人がいる。
寂しいって言ったら、ちゃんと聞いてくれて、笑ってくれて、隣にいてくれる人が。
こうちゃんのことが好きだった。
大切だった。今でも、忘れられないくらいに。
でも、その気持ちにしがみついている限り、私は前に進めない気がしたの。
……ごめんなさい。
ちゃんと話せたらよかったけど、直接はどうしても言えなくて。
これが、最後のメッセージになります。
今まで、ありがとう。
今日子
送信を押すと、画面がすっと静かになった。
メッセージの「既読」は、まだついていない。
けれど今日子は、スマホをそっと伏せて目を閉じた。
涙は、出なかった。
ただ、胸の奥がしんと痛くて、少しだけ軽くなった気がした。
(さようなら、こうちゃん)
その言葉を胸の中でつぶやいて、
今日子はそっと布団にくるまった。
新しい明日が、静かに始まろうとしていた。
白い天井を見上げながら、浩司はスマホを手に取る。
今日子の名前を開いては閉じ、何度もメッセージを書いては消す。
(元気にしてるか……)
聞きたいだけなのに、それすら今の自分には許されていないような気がしていた。
慣れない土地で、目の前の仕事に食らいつく日々。
朝も夜も先輩の予定に合わせて動き、終わる頃にはもう連絡を取る気力すら残っていない。
けれど、ふとした瞬間、今日子の笑顔が頭をよぎる。
(今、何をしてるんだろう)
(今、誰かと会ってるんだろうか)
(俺がいない間に、何か変わったりしてないか……)
そんな自分の不安が、「信じてるつもり」の言い訳を上回りそうになる。
自分のいない時間の中で、彼女がどんな景色を見ているのか。
知りたい。でも、こわい。
静まり返った部屋の中で、浩司はまたため息をひとつ、落とした。
その夜。
今日子はスマホを開いた。
浩司とのトークルーム。何日も既読がついていない画面。
「おかえりなさい、って……いつになったら言えるのかな」
ぽつりとつぶやいて、トークを閉じる。
代わりに、藤木くんのメッセージを開いた。
《今日子ちゃん、今日ありがとう。無理しないでね。》
たったそれだけなのに、胸があたたかくなる。返信を打つ指が、迷わず動いていた。
私は、いまを生きてる。
そんな感覚が、今日子を静かに前に押し出していた。
スマホの画面を開いて、ずっと迷っていたトークルームをもう一度開く。
浩司の名前。
最後に既読がついたのは、何日も前だった。
部屋の灯りを落として、画面の明かりだけが今日子の顔を照らしている。
心臓が、静かに、でも確かに打っていた。
このメッセージを送ったら、もう元には戻れない。
でも、ずっと伝えられなかったままでは、前に進めない。
今の自分を、自分で認めてあげられないと思った。
(わたし、ちゃんと終わらせたい)
深呼吸をひとつして、指を動かす。
何度も消して、書き直して、そしてようやく打ち終えたメッセージ。
《こうちゃんへ》
久しぶりだね。
メッセージ、読んでくれてるかはわからないけど、今の気持ちをちゃんと伝えたくて送ります。
こうちゃんと離れて過ごす時間が長くなる中で、
私は自分でも気づかないうちに、たくさん不安になって、たくさん我慢してたんだと思う。
ずっと「待つのが愛」だと思ってた。
でも、会えなくても、話せなくても、心が繋がってるって信じたくて……
それでも、少しずつ、見えなくなっていった。
今、私のそばには、ちゃんと私を見てくれる人がいる。
寂しいって言ったら、ちゃんと聞いてくれて、笑ってくれて、隣にいてくれる人が。
こうちゃんのことが好きだった。
大切だった。今でも、忘れられないくらいに。
でも、その気持ちにしがみついている限り、私は前に進めない気がしたの。
……ごめんなさい。
ちゃんと話せたらよかったけど、直接はどうしても言えなくて。
これが、最後のメッセージになります。
今まで、ありがとう。
今日子
送信を押すと、画面がすっと静かになった。
メッセージの「既読」は、まだついていない。
けれど今日子は、スマホをそっと伏せて目を閉じた。
涙は、出なかった。
ただ、胸の奥がしんと痛くて、少しだけ軽くなった気がした。
(さようなら、こうちゃん)
その言葉を胸の中でつぶやいて、
今日子はそっと布団にくるまった。
新しい明日が、静かに始まろうとしていた。