やさしく、恋が戻ってくる
「ただいま」
一言だけ声をかけて、バッグを抱えたまま、今日子は自室へ直行した。
部屋のドアを閉めると、ふうっと息をつく。
そのままベッドに腰を下ろし、カバンの中から、ポーチを取り出す。
「…………ふふっ」
取り出した合鍵を見つめながら、思わず、にやけてしまった。
本当に、くれたんだ……)
指先でそっと触れた金属の冷たさに、今日子の心はあたたかくなっていく。
(こうちゃんの部屋の鍵……私だけの)
頬が自然とゆるんでしまって、思わず枕に顔をうずめる。
(バカみたい、わたし……でも……嬉しい)
“好き”って、こういうことなんだろうか。胸がふわっとなって、ちょっと泣きたくなるくらい、幸せ。
鍵を両手で包んで、静かに目を閉じた。
(また行きたいな、こうちゃんの部屋)
だけど、ちゃんと守るって決めた。
「午後7時を過ぎても帰らなかったら、自宅に戻る」って。彼との約束を、大事にしたい。
「……うん、おやすみ。こうちゃん」
小さな声でつぶやいて、鍵をサイドテーブルにそっと置いた。
月の光が、レースのカーテン越しに差し込んでいた。
今日子は、受験に向けて地道に努力を重ねていた。
放課後は図書室で過去問を解き、カフェのバイトも曜日を絞って、机に向かう時間を大切にした。
そして、
12月の初め、彼女の元に届いた封筒。推薦入試での合格通知。
真っ白な紙に「合格」の文字が見えた瞬間、今日子の目には、自然と涙が浮かんだ。
(……やっと、ここまで来れた)
思い浮かんだのは、両親の笑顔と、
そして.......ずっと見守ってくれていた「こうちゃん」の顔だった。
合鍵をもらって以来、ふたりの関係はゆっくりと深まっていた。
会える日ばかりじゃない。こうちゃんは相変わらず多忙で、夜遅くまで仕事が続く日も多かった。
そんな日は、今日子が彼の部屋の冷蔵庫に夕食をそっと置いて帰ったり、休日の夜に映画を見ながら寄り添ったり。
静かだけれど、たしかな時間を重ねていた。
彼の部屋のソファで、ふたりで毛布にくるまって映画を観ていたある夜。
エンドロールが流れたあと、今日子がぼそりとつぶやいた。
「……こうちゃんと、こんなふうに過ごせる日が来るなんて、
1年前は想像もできなかったなあ」
浩司は黙って、今日子の肩を引き寄せる。
「……俺は、ずっと想像してたけどな」
「え?」
「今日子が大学生になったら、きっとこうして、並んで映画観たり、ごはん作ってくれたりするんじゃないかなって」
今日子は目を丸くして、そしてくすっと笑った。
「……ずるいなあ、こうちゃんばっかり」
「俺がずっと先に大人になってたからな。だから、ちゃんと待ってたんだよ」
(ちゃんと、待っててくれた)
それが、どれだけ嬉しくて、どれだけ大きな愛だったか。今日子は、胸の奥で静かに確かめていた。
来年の春には18歳。
少しずつ、“おとなの入り口”に立ち始める今日子の隣には、ずっと「こうちゃん」がいてくれる。そう思えることが、いま、何よりの幸せだった。
一言だけ声をかけて、バッグを抱えたまま、今日子は自室へ直行した。
部屋のドアを閉めると、ふうっと息をつく。
そのままベッドに腰を下ろし、カバンの中から、ポーチを取り出す。
「…………ふふっ」
取り出した合鍵を見つめながら、思わず、にやけてしまった。
本当に、くれたんだ……)
指先でそっと触れた金属の冷たさに、今日子の心はあたたかくなっていく。
(こうちゃんの部屋の鍵……私だけの)
頬が自然とゆるんでしまって、思わず枕に顔をうずめる。
(バカみたい、わたし……でも……嬉しい)
“好き”って、こういうことなんだろうか。胸がふわっとなって、ちょっと泣きたくなるくらい、幸せ。
鍵を両手で包んで、静かに目を閉じた。
(また行きたいな、こうちゃんの部屋)
だけど、ちゃんと守るって決めた。
「午後7時を過ぎても帰らなかったら、自宅に戻る」って。彼との約束を、大事にしたい。
「……うん、おやすみ。こうちゃん」
小さな声でつぶやいて、鍵をサイドテーブルにそっと置いた。
月の光が、レースのカーテン越しに差し込んでいた。
今日子は、受験に向けて地道に努力を重ねていた。
放課後は図書室で過去問を解き、カフェのバイトも曜日を絞って、机に向かう時間を大切にした。
そして、
12月の初め、彼女の元に届いた封筒。推薦入試での合格通知。
真っ白な紙に「合格」の文字が見えた瞬間、今日子の目には、自然と涙が浮かんだ。
(……やっと、ここまで来れた)
思い浮かんだのは、両親の笑顔と、
そして.......ずっと見守ってくれていた「こうちゃん」の顔だった。
合鍵をもらって以来、ふたりの関係はゆっくりと深まっていた。
会える日ばかりじゃない。こうちゃんは相変わらず多忙で、夜遅くまで仕事が続く日も多かった。
そんな日は、今日子が彼の部屋の冷蔵庫に夕食をそっと置いて帰ったり、休日の夜に映画を見ながら寄り添ったり。
静かだけれど、たしかな時間を重ねていた。
彼の部屋のソファで、ふたりで毛布にくるまって映画を観ていたある夜。
エンドロールが流れたあと、今日子がぼそりとつぶやいた。
「……こうちゃんと、こんなふうに過ごせる日が来るなんて、
1年前は想像もできなかったなあ」
浩司は黙って、今日子の肩を引き寄せる。
「……俺は、ずっと想像してたけどな」
「え?」
「今日子が大学生になったら、きっとこうして、並んで映画観たり、ごはん作ってくれたりするんじゃないかなって」
今日子は目を丸くして、そしてくすっと笑った。
「……ずるいなあ、こうちゃんばっかり」
「俺がずっと先に大人になってたからな。だから、ちゃんと待ってたんだよ」
(ちゃんと、待っててくれた)
それが、どれだけ嬉しくて、どれだけ大きな愛だったか。今日子は、胸の奥で静かに確かめていた。
来年の春には18歳。
少しずつ、“おとなの入り口”に立ち始める今日子の隣には、ずっと「こうちゃん」がいてくれる。そう思えることが、いま、何よりの幸せだった。