やさしく、恋が戻ってくる
「今日の夜、レストラン予約した。ちょっとちゃんとしたとこだけど、来れるか?」

そう言ってくれたのは、合格が決まった翌週の火曜。放課後、浩司から届いたメッセージだった。

「うん、行きたい!」

迷うことなんてなかった。

そして迎えた土曜日の夕方。今日子は、紺のワンピースに袖を通し、小さなバッグを肩にかけて家を出た。
待ち合わせの駅で出迎えてくれた浩司は、いつもより少しだけきちんとしたジャケット姿で、
でもやっぱり、どこか“こうちゃんらしい不器用な優しさ”がにじんでいた。

ふたりが向かったのは、駅から少し歩いた場所にある、落ち着いた雰囲気のイタリアンレストラン。
白いクロスのテーブル、やわらかな灯り、窓の外には、冬の街が静かにきらめいていた。

前菜、スープ、パスタ、メイン、浩司はメニューを見ながら、少しだけ緊張した様子で料理を選んでいた。

「こうちゃん、こういうお店、あんまり来ないでしょ?」

「バレたか」

「ふふ、バレバレ」

「でも……今日子のために、ちゃんとしたとこ、探したんだ」

その言葉に、胸がふわっと温かくなる。

デザートが運ばれた頃、浩司はふと、ポケットに手を入れた。

「今日子」

「ん?」

「合格……ほんとうにおめでとう」

「ありがとう。こうちゃんのおかげで、がんばれたよ」

「いや。……頑張ったのは、お前自身だよ」

そう言って、浩司は静かに、小さな箱を取り出した。今日子の目が、みるみる大きくなる。

「え……?」

「これは、俺の気持ち。将来……今日子がちゃんと大人になったとき、俺は、迎える覚悟があるってことを……伝えたくて」

そして箱を開くと、そこには細身で、繊細な指輪が、そっと輝いていた。
店内のやさしい灯りが、そのリングに反射して、まるでふたりの時間を照らしているようだった。

「……プロポーズだよ。今の俺なりの」

今日子の喉が、きゅっと詰まる。

涙がにじんで、でも口角があがって、彼をまっすぐに見つめた。

「……うん。ありがとう、こうちゃん」

「俺と……将来、夫婦になってくれるか?」

「うん……なりたい。なります」

浩司の指先が、そっと今日子の左手薬指に触れる。指輪は、ぴたりと彼女の指に馴染んだ。

今日子がそっと呟く。

「ねえ、こうちゃん。わたし、この日……絶対忘れない」

「俺もだよ」

その瞬間、窓の外にふと、小さな雪が舞い始めた。
浩司の指先が、そっと今日子の左手薬指に触れる。
指輪は、ぴたりと彼女の指に馴染んだ。


まだ春の手前。
でもふたりの未来には、静かにあたたかな光が灯っていた。

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