やさしく、恋が戻ってくる
翌週の土曜日。
落ち着いた和食レストランの個室に、浩司・その両親、そして今日子と彼女の両親が揃った。
初めての正式な顔合わせ。
季節の小鉢が並び、緊張の中にも穏やかな空気が流れていた。
祝いの席は、和やかな笑い声に包まれていた。
隣同士に座った浩司と今日子は、やや緊張気味ながらも、互いの手のぬくもりを感じながら微笑みを交わす。
「昔は、あのふたりがこんな日を迎えるなんて、誰が想像したかしらね」
浩司の母が懐かしそうに目を細める。
「ええ、本当に。小さい頃なんて、今日子がこうちゃんの後ろをちょこちょこついて歩いてて……」
今日子の母の言葉に、全員がふっと笑った。
「でも、昔から不思議と、ふたりの間には静かな信頼があった気がするなぁ」
浩司の父がしみじみと言い、誰もがその言葉に頷いた。
料理を囲みながら、思い出話や未来の話に花が咲く。
ときおり浩司と今日子の視線がそっと重なり、照れくさそうに微笑むふたりを見て、大人たちの表情には自然とやさしい喜びがにじんでいた。
それは、家族になるということの温かさが、じんわりと広がる時間だった。
食事が進んでいた頃、浩司が静かに立ち上がり、両親に一礼してから言った。
「……今日は、この場を設けていただきありがとうございます」
真っ直ぐな声が、個室の空気を引き締めた。
「この春から、今日子は大学生になります。自宅から通うこともできますが、僕のマンションのほうが大学には近いです」
父親たちが顔を見合わせる。
浩司は続けた。
「そして……以前からお付き合いさせていただいていた今日子と、このたび正式に、婚約をさせていただきました。
それに伴い、春から同棲を始めたいと考えております」
今日子の父・義夫の眉がピクリと動いた。
「同棲……?」
「はい。もちろん、いまはまだ結婚ではありません。ですが、ふたりで生活を始め、将来に向けて、
共に成長していけたらと考えています」
義夫は箸を置いて、重たく息を吐いた。
「……こうちゃん、君は今、一級建築士の勉強中だと聞いてる。2年後の国家試験に向けて、
いちばん集中しなきゃいけない時期じゃないか。そこに同棲なんて、娘に甘えたらいかん。
まだ今日子も18になるばかりで、未成年だ。もっと段階を踏んでからでも、遅くはないだろう?」
浩司は、少しも視線をそらさなかった。
「……俺は、十分待ちました」
その言葉に、今日子の母が小さく息を呑んだ。
「今日子がまだ高校生の時から、お付き合いをはじめました。我慢も、距離も、ずっと大事にしてきたつもりです。
でも、いま、ようやく隣にいてくれるようになって、俺は、今日子がそばにいてくれるほうが、頑張れると実感しています」
一瞬の沈黙。
義夫はゆっくりと水を飲み、考えるように目を伏せた。
「……今日子は、わたしたちの大切な娘だ。まだ未成年だし、簡単に“どうぞ”とは言えんよ」
「わかってます。その責任も含めて……俺の覚悟です」
その瞬間、今日子がゆっくりと口を開いた。
「お父さん……わたし、こうちゃんと一緒にいたい。一緒に暮らしながら、ちゃんと大学も通う。勉強もサボらない。
そう約束するから……認めてほしいの」
父・義夫はしばらく無言だったが、
ふっと目を閉じて、重々しく頷いた。
「……じゃあ、一つ条件をつけさせてもらう。週末は必ず、実家に帰ってくること。それ以外は……今回は認めよう」
今日子の目に、うっすらと涙が浮かんだ。
浩司は深く頭を下げた。
「……ありがとうございます。大切にします。今日子のことも、未来のことも、すべて」
静かな拍手のように、湯呑みの音が鳴った。
大人たちの世界に、ふたりの未来が、少しずつ受け入れられた瞬間だった。
落ち着いた和食レストランの個室に、浩司・その両親、そして今日子と彼女の両親が揃った。
初めての正式な顔合わせ。
季節の小鉢が並び、緊張の中にも穏やかな空気が流れていた。
祝いの席は、和やかな笑い声に包まれていた。
隣同士に座った浩司と今日子は、やや緊張気味ながらも、互いの手のぬくもりを感じながら微笑みを交わす。
「昔は、あのふたりがこんな日を迎えるなんて、誰が想像したかしらね」
浩司の母が懐かしそうに目を細める。
「ええ、本当に。小さい頃なんて、今日子がこうちゃんの後ろをちょこちょこついて歩いてて……」
今日子の母の言葉に、全員がふっと笑った。
「でも、昔から不思議と、ふたりの間には静かな信頼があった気がするなぁ」
浩司の父がしみじみと言い、誰もがその言葉に頷いた。
料理を囲みながら、思い出話や未来の話に花が咲く。
ときおり浩司と今日子の視線がそっと重なり、照れくさそうに微笑むふたりを見て、大人たちの表情には自然とやさしい喜びがにじんでいた。
それは、家族になるということの温かさが、じんわりと広がる時間だった。
食事が進んでいた頃、浩司が静かに立ち上がり、両親に一礼してから言った。
「……今日は、この場を設けていただきありがとうございます」
真っ直ぐな声が、個室の空気を引き締めた。
「この春から、今日子は大学生になります。自宅から通うこともできますが、僕のマンションのほうが大学には近いです」
父親たちが顔を見合わせる。
浩司は続けた。
「そして……以前からお付き合いさせていただいていた今日子と、このたび正式に、婚約をさせていただきました。
それに伴い、春から同棲を始めたいと考えております」
今日子の父・義夫の眉がピクリと動いた。
「同棲……?」
「はい。もちろん、いまはまだ結婚ではありません。ですが、ふたりで生活を始め、将来に向けて、
共に成長していけたらと考えています」
義夫は箸を置いて、重たく息を吐いた。
「……こうちゃん、君は今、一級建築士の勉強中だと聞いてる。2年後の国家試験に向けて、
いちばん集中しなきゃいけない時期じゃないか。そこに同棲なんて、娘に甘えたらいかん。
まだ今日子も18になるばかりで、未成年だ。もっと段階を踏んでからでも、遅くはないだろう?」
浩司は、少しも視線をそらさなかった。
「……俺は、十分待ちました」
その言葉に、今日子の母が小さく息を呑んだ。
「今日子がまだ高校生の時から、お付き合いをはじめました。我慢も、距離も、ずっと大事にしてきたつもりです。
でも、いま、ようやく隣にいてくれるようになって、俺は、今日子がそばにいてくれるほうが、頑張れると実感しています」
一瞬の沈黙。
義夫はゆっくりと水を飲み、考えるように目を伏せた。
「……今日子は、わたしたちの大切な娘だ。まだ未成年だし、簡単に“どうぞ”とは言えんよ」
「わかってます。その責任も含めて……俺の覚悟です」
その瞬間、今日子がゆっくりと口を開いた。
「お父さん……わたし、こうちゃんと一緒にいたい。一緒に暮らしながら、ちゃんと大学も通う。勉強もサボらない。
そう約束するから……認めてほしいの」
父・義夫はしばらく無言だったが、
ふっと目を閉じて、重々しく頷いた。
「……じゃあ、一つ条件をつけさせてもらう。週末は必ず、実家に帰ってくること。それ以外は……今回は認めよう」
今日子の目に、うっすらと涙が浮かんだ。
浩司は深く頭を下げた。
「……ありがとうございます。大切にします。今日子のことも、未来のことも、すべて」
静かな拍手のように、湯呑みの音が鳴った。
大人たちの世界に、ふたりの未来が、少しずつ受け入れられた瞬間だった。