ポーカーフェイスの二人は相思相愛で甘々で
3★
金曜日の夜。
それぞれの部活の飲み会に参加していた湯田中蓮と田澤雪乃は、LINEひとつだけ交わしていた。
> 「21時、駅のロータリーで。」
顔文字もスタンプもない。ただそれだけで、ふたりは通じ合っていた。
*
雪乃は、駅前の人ごみの中に立っていた。
無表情ではあるけれど、わずかに頬が赤い。アルコールのせいか、あるいは――
「……蓮、遅い。」
誰にも聞こえないような声で呟いたその時、向こうから蓮が歩いてきた。
白シャツの第一ボタンを外し、やや乱れた髪。少しだけ酔っているようだった。
「雪乃。」
「……来た。」
二人は自然と並んで歩き出す。言葉はない。でも、ほんのりと空気が重い。
蓮がふと横目で雪乃を見る。
「……男、多かった?」
「いたけど、話してない。」
「……そう。」
沈黙。数歩歩いたところで、今度は雪乃がぽつり。
「蓮の方こそ……女の先輩、隣だったって聞いた。」
「……うん。隣だった。」
「……ふーん。」
表情は動かない。でも、指先がぎゅっと自分のスカートの裾を握っていた。
「おれ、雪乃のことずっと考えてた。」
「わたしも。」
信号が赤になり、二人は立ち止まる。雪乃の横顔に、蓮がそっと手を伸ばす。
「……顔、赤い。」
「お酒のせい。」
「ほんとに?」
「……蓮のせいでもある。」
蓮の目が細くなる。無表情の奥に、確かな熱が宿る。
「なんで。」
「だって……最近、蓮の前だと、わたし……かわいくなってる気がする。」
「……かわいいよ。すごく。」
「だから、見られたくない。他の人に。」
その瞬間、信号が青に変わった。
蓮はそっと雪乃の手を取り、何も言わずにそのまま歩き出す。
*
雪乃の部屋。
玄関を入った瞬間、雪乃が蓮の腕を引いた。
「……なんか、今日は、ダメ。」
「なにが?」
「嫉妬して、胸のあたりが苦しいの。」
「おれも。」
蓮はコートを脱ぎながら、雪乃の頬をそっと撫でた。
「……おれだけ見てて。」
「見てる。……ずっと、見てる。」
雪乃が蓮に寄りかかる。唇が、そっと重なる。静かに、深く。
「蓮がいない間、何回も思った。いま誰と話してるのかなって。」
「おれも。……雪乃が笑ってたらどうしようって。」
「……わたし、蓮の前だとだけ、こんな風になるんだよ?」
「……知ってる。どんどん、可愛くなってる。」
蓮の手が雪乃の頬から首筋をなぞり、ゆっくりと腰を抱く。
「全部、蓮のせい。」
「全部、雪乃のせいでもある。」
甘い嫉妬は、熱を帯びて、ふたりを再び一つにする。
静かな部屋で、心臓の音と吐息だけが重なり合う。
誰も知らない、ふたりだけの静かな夜。
拗らせるほどに、愛は深く、甘く――とろけていく。
それぞれの部活の飲み会に参加していた湯田中蓮と田澤雪乃は、LINEひとつだけ交わしていた。
> 「21時、駅のロータリーで。」
顔文字もスタンプもない。ただそれだけで、ふたりは通じ合っていた。
*
雪乃は、駅前の人ごみの中に立っていた。
無表情ではあるけれど、わずかに頬が赤い。アルコールのせいか、あるいは――
「……蓮、遅い。」
誰にも聞こえないような声で呟いたその時、向こうから蓮が歩いてきた。
白シャツの第一ボタンを外し、やや乱れた髪。少しだけ酔っているようだった。
「雪乃。」
「……来た。」
二人は自然と並んで歩き出す。言葉はない。でも、ほんのりと空気が重い。
蓮がふと横目で雪乃を見る。
「……男、多かった?」
「いたけど、話してない。」
「……そう。」
沈黙。数歩歩いたところで、今度は雪乃がぽつり。
「蓮の方こそ……女の先輩、隣だったって聞いた。」
「……うん。隣だった。」
「……ふーん。」
表情は動かない。でも、指先がぎゅっと自分のスカートの裾を握っていた。
「おれ、雪乃のことずっと考えてた。」
「わたしも。」
信号が赤になり、二人は立ち止まる。雪乃の横顔に、蓮がそっと手を伸ばす。
「……顔、赤い。」
「お酒のせい。」
「ほんとに?」
「……蓮のせいでもある。」
蓮の目が細くなる。無表情の奥に、確かな熱が宿る。
「なんで。」
「だって……最近、蓮の前だと、わたし……かわいくなってる気がする。」
「……かわいいよ。すごく。」
「だから、見られたくない。他の人に。」
その瞬間、信号が青に変わった。
蓮はそっと雪乃の手を取り、何も言わずにそのまま歩き出す。
*
雪乃の部屋。
玄関を入った瞬間、雪乃が蓮の腕を引いた。
「……なんか、今日は、ダメ。」
「なにが?」
「嫉妬して、胸のあたりが苦しいの。」
「おれも。」
蓮はコートを脱ぎながら、雪乃の頬をそっと撫でた。
「……おれだけ見てて。」
「見てる。……ずっと、見てる。」
雪乃が蓮に寄りかかる。唇が、そっと重なる。静かに、深く。
「蓮がいない間、何回も思った。いま誰と話してるのかなって。」
「おれも。……雪乃が笑ってたらどうしようって。」
「……わたし、蓮の前だとだけ、こんな風になるんだよ?」
「……知ってる。どんどん、可愛くなってる。」
蓮の手が雪乃の頬から首筋をなぞり、ゆっくりと腰を抱く。
「全部、蓮のせい。」
「全部、雪乃のせいでもある。」
甘い嫉妬は、熱を帯びて、ふたりを再び一つにする。
静かな部屋で、心臓の音と吐息だけが重なり合う。
誰も知らない、ふたりだけの静かな夜。
拗らせるほどに、愛は深く、甘く――とろけていく。