ポーカーフェイスの二人は相思相愛で甘々で

3★

金曜日の夜。

それぞれの部活の飲み会に参加していた湯田中蓮と田澤雪乃は、LINEひとつだけ交わしていた。

> 「21時、駅のロータリーで。」



顔文字もスタンプもない。ただそれだけで、ふたりは通じ合っていた。



雪乃は、駅前の人ごみの中に立っていた。

無表情ではあるけれど、わずかに頬が赤い。アルコールのせいか、あるいは――

「……蓮、遅い。」

誰にも聞こえないような声で呟いたその時、向こうから蓮が歩いてきた。

白シャツの第一ボタンを外し、やや乱れた髪。少しだけ酔っているようだった。

「雪乃。」

「……来た。」

二人は自然と並んで歩き出す。言葉はない。でも、ほんのりと空気が重い。

蓮がふと横目で雪乃を見る。

「……男、多かった?」

「いたけど、話してない。」

「……そう。」

沈黙。数歩歩いたところで、今度は雪乃がぽつり。

「蓮の方こそ……女の先輩、隣だったって聞いた。」

「……うん。隣だった。」

「……ふーん。」

表情は動かない。でも、指先がぎゅっと自分のスカートの裾を握っていた。

「おれ、雪乃のことずっと考えてた。」

「わたしも。」

信号が赤になり、二人は立ち止まる。雪乃の横顔に、蓮がそっと手を伸ばす。

「……顔、赤い。」

「お酒のせい。」

「ほんとに?」

「……蓮のせいでもある。」

蓮の目が細くなる。無表情の奥に、確かな熱が宿る。

「なんで。」

「だって……最近、蓮の前だと、わたし……かわいくなってる気がする。」

「……かわいいよ。すごく。」

「だから、見られたくない。他の人に。」

その瞬間、信号が青に変わった。

蓮はそっと雪乃の手を取り、何も言わずにそのまま歩き出す。



雪乃の部屋。

玄関を入った瞬間、雪乃が蓮の腕を引いた。

「……なんか、今日は、ダメ。」

「なにが?」

「嫉妬して、胸のあたりが苦しいの。」

「おれも。」

蓮はコートを脱ぎながら、雪乃の頬をそっと撫でた。

「……おれだけ見てて。」

「見てる。……ずっと、見てる。」

雪乃が蓮に寄りかかる。唇が、そっと重なる。静かに、深く。

「蓮がいない間、何回も思った。いま誰と話してるのかなって。」

「おれも。……雪乃が笑ってたらどうしようって。」

「……わたし、蓮の前だとだけ、こんな風になるんだよ?」

「……知ってる。どんどん、可愛くなってる。」

蓮の手が雪乃の頬から首筋をなぞり、ゆっくりと腰を抱く。

「全部、蓮のせい。」

「全部、雪乃のせいでもある。」

甘い嫉妬は、熱を帯びて、ふたりを再び一つにする。

静かな部屋で、心臓の音と吐息だけが重なり合う。

誰も知らない、ふたりだけの静かな夜。
拗らせるほどに、愛は深く、甘く――とろけていく。

< 3 / 9 >

この作品をシェア

pagetop